(社説)日本の人権外交 普遍的価値掲げるなら

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 岸田首相が国際人権問題担当の首相補佐官を新設し、政権として人権外交を推進する姿勢を打ち出した。

 「基本的人権の尊重」を憲法の原則とする日本が、国際社会の普遍的な価値である人権を外交の軸に据えることには意義がある。ただ、特定の国を牽制(けんせい)する手段であってはならないし、外国人も含めた国内の人権状況の改善にも努めねばならない。

 人権担当補佐官の設置は、首相の自民党総裁選での公約だった。衆院選での党の政権公約は、ウイグルや香港などを例示したうえで、人権をめぐる諸問題に「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求める」とした。補佐官に任命された中谷元・元防衛相は、地球上の至る所で人権侵害があり、「特定の国を念頭にはしない」と語ったが、中国が主な対象であることは明らかだ。

 中谷氏が共同会長を務めていた「人権外交を超党派で考える議員連盟」は、海外で起きた重大な人権侵害に対し、入国制限や資産凍結などの制裁を科せるようにする人権侵害制裁法案の成立をめざしている。同種の法律は、米国が2012年に対ロシアを念頭に制定した後、英国やカナダなど欧米諸国で整備が進んだが、日本にはない。

 深刻な人権侵害に抗議する国際社会と足並みをそろえようという意図は理解できる。しかし、ある国に対しては厳しく対応する一方、別の国の状況には目をつぶるといった二重基準がまかり通れば、かえって国際的な信用を失うことにもなりかねない。制裁が対抗措置を招くだけで、実際の人権状況の改善につながらない場合もあろう。

 政府はこれまで、対話重視の外交を展開しており、制裁法案については慎重な姿勢を崩していない。林芳正外相は就任会見で、二国間の対話や協力を積み重ねて自主的な努力を促すなど、「日本らしい人権外交」を進めたいと語った。単なる駆け引きの道具ではなく、真にその価値の普遍性に向き合った外交につなげられるか、トップである首相の見識が問われる。

 他国に口を出す以上、国内においても人権への取り組みを強化し、侵害は許さないという強い決意が不可欠だ。日本が未加盟の国際人権条約もあり、対応を検討する必要がある。

 入管施設での外国人の長期収容という深刻な問題もある。今年3月には、スリランカ人女性が適切な医療を受けられずに病死し、非人道的な職員の振る舞いが批判された。増え続ける外国人労働者や留学生を守る制度も不十分なままだ。こうした現状を放置したままでは、人権外交の説得力は得られない。

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