(社説)中国選手「失踪」 うやむやは許されない

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 ゆゆしき内容の訴えがあったのち、その声をあげた当事者が姿を消す。真実は明かされず、時間とともにうやむやにされていく。この異様な過程が何度くり返されてきたことか。

 2週間以上にわたり動向が注目されていた中国の著名なテニス選手、彭帥(ポンショワイ)さんの動静が、中国メディア関係者のSNS上で伝えられた。

 彭さんは今月初め、中国版ツイッターで、元政府高官と同意のない性的関係があったとする文章を発信した。直後に文章は削除され、彭さんは国外の関係者らとの連絡が途絶えた。

 国際社会が安否を心配し、各国政府やスポーツ選手らが懸念を示したのは当然だ。

 文章が彭さん自身によるものなのかも含め、事実関係は不明である。しかし、中国のような一党支配の国家において元高官の持つ権力は極めて大きい。

 性的関係の強制が本当にあったのか。それを隠蔽(いんぺい)する行為は行われていないのか。中国政府には事実関係を調べ、明らかにする責務がある。

 中国では、当局に批判的な言動をとった人物が「失踪」するケースはあとを絶たない。最近では、有名なIT企業創設者が政策に批判的な発言をした後、数カ月間消息がわからなくなっていた。

 昨年、コロナ感染が拡大する武漢の状況を伝えようとした市民記者の多くも行方不明となった。約1年もたってから国家安全当局に拘束されていたことが分かった男性もいた。

 人々の自由な発言を権力が無理やり黙らせ、消し去ろうとする怖さ。都合の悪い真実を人々の目から隠そうとする姑息(こそく)さ。国際社会が中国共産党政権に抱く不信の根源は、まさにこの辺りにあるのではないか。

 中国の対応に厳しい視線が送られるなか、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は今週、中国当局の同席の下、彭さんとオンラインで会話し、「自宅にいて、元気で安全だと説明を受けた」と発表した。

 中国のたび重なる人権軽視に目をつぶった、無責任な態度というほかない。IOCなど国際組織がとるべき行動は、彭さんが圧力を感じずに自由に発言できるような環境を確保し、何が起きていたのかの真相にできるだけ迫ることではないか。

 習近平(シーチンピン)国家主席はかねて、中国の国際的イメージの改善をめざし、「愛される中国」をつくれと演説で訴えている。

 だが現実はかけ離れている。理不尽な迫害や差別にあった人が抗議の声をあげようとしたとき、その当然の自由と権利を守れない国家や組織が、世界から尊敬されることはない。