(社説)米自動車関税 「撤廃前提」の答弁守れ

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 「自動車関税の撤廃は前提になっている」という政府の説明は何だったのか。「不平等条約」を隠す言い逃れであれば、看過できない。昨年1月に発効した日米貿易協定である。

 協定では、牛肉など農産品に日本が課す関税は、トランプ前米大統領が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)並みに下げられた。一方、TPPで撤廃が決まっていた米国の自動車関税は、関連文書に「撤廃に関してさらに交渉する」と記載されただけだ。

 当時の安倍首相らは「関税撤廃が前提」と繰り返し、国会承認を取りつけた。自動車関税は第2段階の交渉で実現する、というのが公式見解だった。

 合意から2年が経過したが、交渉は始まる気配すらない。それどころか、日米両政府は先週、新たな経済協議の枠組みを発足させ、自動車関税協議は事実上凍結した。朝日新聞の試算では、自動車関税が撤廃されなければ、日本の関税削減額は米国の4倍にのぼる。「日米双方にとってウィンウィン」とした当時の茂木敏充外相の説明の妥当性も問われよう。

 答弁のほころびは明らかである。政府は、実態と乖離(かいり)した説明を繰り返した責任を明らかにしたうえで、今後の交渉方針を国民に示す必要がある。

 忘れてはならないのは、自動車関税撤廃は、単に日米間の損得にとどまらないことである。

 世界貿易機関(WTO)のルールでは、自由貿易協定は9割程度の関税撤廃率が必要とされる。自動車関税が撤廃されなければ、米国の撤廃率は6割以下にとどまる見通しだ。日米両国は、協定をWTOに通報する義務も果たしていない。

 これでは、自由貿易を牽引(けんいん)する大国としての役割を放棄していると言わざるを得まい。日米両国は第2段階の協議に入って自動車関税撤廃に向かうことを明らかにし、通報義務も果たすことが求められる。

 バイデン米政権は、日本の鉄鋼・アルミ製品への追加関税をいまだに続けている。前政権が安全保障と結びつけて始めた筋違いの措置であり、すみやかに撤廃すべきだ。

 日米両国は先週、インド太平洋の経済秩序の構築に向けて協力していくことでも合意した。TPPに対する米国内の反発が根強いなか、バイデン政権は米国主導で別の枠組みをつくる狙いがあるとみられる。

 米国のアジア太平洋への積極的な関与は歓迎だが、TPPは中国と台湾が相次いで加盟を申請し、新たな局面を迎えている。日本政府は米国に、TPPへの復帰を粘り強く働きかけてほしい。