(社説)DNA捜査 法整備して信頼つなげ

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 広島県福山市で01年2月に起きた主婦刺殺事件で、67歳の男が先ごろ逮捕・起訴された。現場の血痕のDNA型の特徴が、別の事件で捜査対象になった男のものと合致したという。

 発生から20年8カ月。本当に被告の犯行かどうかはこれからの裁判を経て決まるが、殺人罪の公訴時効が撤廃されるなか、検挙にこぎつけた捜査当局の努力に敬意を表したい。

 一方で課題も改めて浮き彫りになった。DNAをめぐる捜査のあり方である。

 県警は今回、現場周辺の住民からも照合用のDNAを任意で採取した。断れば疑われかねないと思って応じた人もいる。

 対象をどう決め、どれだけの人数から提供を受けたのか、公式の説明はない。捜査員は住民に、事件と無関係だとわかればデータベースに登録せず廃棄すると約束したという。だがそれを確認・検証するすべはない。

 可能性を「つぶす」ための同様の捜査は千人規模で広く行われている。この事件に限らず、協力した人が抱く不安や疑問は置き去りにされたままだ。

 容疑者に関する警察庁のDNA型データベースの登録件数は、昨年末までに140万件を超えた。しかし、採取や保管、利用、抹消などを定めた法律はない。国家公安委員会の規則に基づいて運用され、不起訴や無罪になった人の情報をどうするかは当局の判断次第だ。

 05年の運用開始を前に、当時の国家公安委員長は国会で「法制化の必要性」に言及。有識者研究会も12年に検討すべき論点や材料を示したが、うやむやになった。運用に委ねられている現状が都合よく、法制化によって制約が増えるのは避けたいという本音が透けて見える。

 しかしそれでいいのか。

 日々の事件はもちろん、来月末で発生21年となる東京・世田谷一家殺害など未解決の案件も数多く残る。年月の経過により目撃証言などに頼る捜査は難しく、物証とりわけDNA型鑑定への期待は大きい。人々の理解と協力を得られるよう、DNAの取得・管理について明確なルールを設け、社会の合意を築いておくことが、捜査側にとっても必要ではないか。

 主要国では、法律を整備して乱用できない仕組みにしているところが多い。例えばカナダでは、データベースの運営を警察とは別の機関が監督する。ドイツでは、登録対象を重大事件を起こしたり犯罪を繰り返したりする人に限ったうえで、裁判所が必要性を判断する。

 現状を良しとせず、課題を洗い出し、「究極の個人情報」にふさわしい扱いをすることが、市民の信頼につながる。

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