(社説)来年の春闘 賃上げ拡大を出発点に

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 来年の春闘に向けた議論が始まった。コロナ禍からの安定的な経済回復には、着実な賃上げが必須の条件だ。長く抑え込まれてきた働き手への還元拡大を実現できるかは、「新しい資本主義」を議論し始めた岸田政権や経済界の姿勢の真贋(しんがん)を測る試金石にもなるだろう。

 労働組合の中央組織である連合は2日、来春の春闘方針を正式に決めた。ここ数年と同様、ベースアップ2%、定期昇給分を含め4%程度の賃金の「底上げ」を目指すことに加え、企業規模や雇用形態による「格差の是正」、時給1150円以上の企業内最低賃金協定などによる「底支え」を掲げた。

 ベアが14年ごろから復活するなど過去数年の春闘は一定の成果を上げてきた。しかし景気後退に入った19年ごろから賃上げ率は頭打ちになり、さらにコロナ禍で低下傾向にある。

 企業業績は業種による格差を伴いつつも、全体としてはコロナ禍以前の水準に復調しつつある。オミクロン株の動向など先行きはなお予断を許さないが、各種の政策的支援もあり、多くの企業は賃上げできる経営体力があるはずだ。

 海外のインフレの影響は徐々に国内にも及んできており、22年度は0・5~1%程度の物価上昇になるとの予測が多い。食料品や燃料など必需品の値上がりが目立つなかで、ベアの水準が低ければ賃金は実質的に目減りし、経済回復の基盤になる消費に水を差しかねない。

 先月26日に政府が開いた「新しい資本主義実現会議」では、主要国の中で日本の賃金水準の停滞が目立つ姿を描く資料を事務局が示した。過去20年間、企業が現預金や配当金を大きく増やす一方、人件費は横ばい以下とのデータも含まれる。岸田首相は「業績がコロナ前の水準を回復した企業」との前提をつけつつ、「新しい資本主義の起動にふさわしい3%を超える賃上げを期待する」と述べた。

 経営側では、今年6月に就任した経団連の十倉雅和会長が、株主第一主義からの脱却や「社会的観点」の重要さを強調してきた。春闘については「岸田首相の期待に応えていきたい」とも発言しているが、個社の事情への配慮もにじませている。この局面でこそリーダーシップが問われていることを、十分に自覚してほしい。

 連合の芳野友子会長も10月の就任後初の春闘になる。新体制の求心力を高め、連合の存在意義を社会に示すためにも、春闘を通じて広範な働き手の利益に資する組織であることを示す必要がある。政治的影響力を発揮するにしても、連合自体の「地力」増強が大前提だ。

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