(社説)ドイツ新政権 欧州安定の主導継続を

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 ドイツだけでなく、世界から惜しまれて引退したメルケル前首相が好んだ一節がある。

 「すべての始まりには不思議な力が働く」。ノーベル賞作家ヘルマン・ヘッセの言葉だ。

 未知数ゆえに不安はあれど、16年ぶりに生まれたドイツの新首相の政権である。オラフ・ショルツ氏(63)に、清新で大胆な指導力を期待したい。

 総選挙から2カ月あまり。中道左派社会民主党と、環境を重んじる緑の党、産業界寄りの自由民主党の3党による連立政権が発足した。

 互いによそよそしさは否めない混成内閣である。それでも連立合意では、石炭火力を「理想的には2030年で廃止」するとしつつ、デジタル化などで「過去100年間なかった社会投資」をうたい、環境対策と産業育成の両立を掲げた。

 ショルツ首相は、大連立の前政権では財務相だった。弁護士出身で地味な実務型とされるものの、さっそく新風を感じさせた点がすでにある。

 まずは男女の平等だ。首相以外の16閣僚を8人ずつ任じた。全員40、50代。多様性と世代交代をアピールしている。

 もうひとつは、あらゆる核軍備を違法とする核兵器禁止条約への姿勢だ。米国による「核の傘」に守られながらも、条約の締約国会議にオブザーバー参加する意向を合意に記した。

 内閣の男女平等も、核廃絶への取り組みも、日本の岸田政権は見習わねばなるまい。

 世界はコロナ禍の渦中にあるほか、先進国では低成長時代の新たな社会像の模索が続いている。米国の指導力が後退して、どう国際秩序を保つかも問われている。

 そうしたなかで誕生したドイツの中道左派主導の政権が、どんな境地を切り開くのか。各国は注視している。

 来年は主要7カ国(G7)会議の議長国でもある。米中対立による分断が案じられるだけに、メルケル氏が貫いた多国間協調主義をしっかり引き継いでもらいたい。

 欧州連合(EU)の牽引(けんいん)役としても、ドイツの重責は続く。英国離脱の危機は乗り切りつつあるが、地域統合の流れに対する逆風はいまも絶えない。

 ハンガリーやポーランドでは、法の支配を損なうような政権の動きがみられる。危うい大衆扇動政治を生む難民・移民問題もくすぶり続けている。

 幸いにもショルツ政権の3党は、EU重視の方針で一致している。人権、民主主義といったEUの価値観を守る努力を強めるとともに、欧州最大の経済大国として地域経済の安定をめざす目配りが欠かせない。

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