(社説)大阪ビル火災 犠牲者の無念を思う

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 亡くなった方の冥福を祈り、心身に傷を負った人たちの一日も早い快復を願う。

 大阪市の繁華街・北新地の一角にある雑居ビルから火が出て、24人の死亡が確認された。犠牲者の多さでは、2年前に京都アニメーションのスタジオが放火されて36人が亡くなった事件以来の大惨事となった。

 現場は8階建てビルの4階にある心療内科精神科などのクリニックだった。目撃者の話では、来院した男が受付近くにあった暖房器具のそばに紙袋を置いて蹴り倒し、漏れ出た液体の辺りから燃え上がった。男も重篤な状態にあるという。

 大阪府警は放火事件として捜査している。消防当局と連携して、被害が拡大した原因、そして男の行動の詳細や背景の究明に力を尽くしてほしい。

 出火当時、クリニックでは職場復帰をめざす人のためのプログラムが予定されていた。不調を抱えながらも新たなスタートに取り組もうとしていたのだろう。その道を突然絶たれた無念さは計り知れない。

 都心部では同様に小さなビルで開業しているクリニックが少なくない。なかには事件に恐怖を覚えて通院をためらう患者がいるかもしれない。一人ひとりの動向や変化に目を配り、場合によっては近隣の病院に引き受けを依頼するなどして、ケアに万全を期したい。

 市消防局によると、入居していたビルは小規模でスプリンクラーの設置義務はなく、消火器などの設備に不備はなかった。延焼面積は小さく、短時間で消し止められたものの、煙が大量に発生し、被害者は一酸化炭素中毒で死亡したり、意識不明になったりしたとみられる。

 エレベーターを降りるとすぐに受付になっていて、階段もそこにある構造だった。このためクリニック内の人は脱出する手立てを封じられたようだ。

 専門家は、離れた場所に複数の出入り口を確保する「2方向避難」の重要性を指摘する。スプリンクラーがあれば素早く消火できたのではないか、との思いも消えない。既存のビルの改修は容易ではないが、まずは新築から可能性を探りたい。

 20年前、東京・歌舞伎町の雑居ビルで44人が亡くなった火災を受けて消防法が改正され、立ち入り検査などが強化された。その後も16人が死亡した大阪・ミナミの個室ビデオ店放火事件などを経ながら、防災機器を設置する対象の拡大やビル管理の強化などが進められてきた。

 ソフトとハードの両面からとりうる対策を検討し、着実に実践する。今回のビル火災からも教訓を導き出し、悲劇を一つでも減らしていかねばならない。

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