(社説)来年度予算案 漫然と借金を重ねるな

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 財政の真の姿も、政府が重視する政策も見えない。ただ財政規律を守っているかのごとく取り繕う。そんな予算編成をいつまで続けるつもりなのか。政府がきのう閣議決定した来年度当初予算案である。

 総額は過去最大の107・6兆円。予算の3分の1を占める社会保障費は、診療報酬を改定するなどした結果、前年度比0・4兆円増に伸び幅を圧縮した。社会保障以外の政策の予算では、骨太の方針で定めた歳出の目安を守りつつ、科学技術振興費に過去最大の1・4兆円を計上し、科学技術立国を進めるとしている。

 一方、コロナ禍のもとでも企業の業績は想定以上に堅調で、来年度の税収はコロナ前の19年度予算を3兆円近く上回る65・2兆円を見込む。それでも、歳出の34%を借金でまかなう苦しい財政運営に変わりはない。

 見過ごせないのは、実際の財政状況は見かけ以上に深刻なことだ。

 20日に成立した総額約36兆円の今年度補正予算には、防衛装備品の購入や公共事業など、コロナとは無関係の予算が10兆円近く計上された。これらの事業の多くは、災害対策などの「緊要な経費」に限る補正の趣旨から逸脱しており、本来ならば当初予算に計上すべき事業である。当初の財政規律を装うために、補正を悪用する財政運営は改めるべきだ。

 岸田首相は、巨額補正の理由を「未来に向けて経済を再起動する。必要なものをしっかりと用意することが政治の責任だ」と力説する。ならば、既存の予算を抜本的に組み替えたり、増税の道筋をつけたりして、財源確保に努めることも政治の責任ではないのか。

 ところが、コロナ禍を踏まえた政策の優先順位の精査は、放棄されたも同然である。当初予算に計上した社会保障や科学技術などの主要経費は軒並み、前年度と比べてわずか1%前後しか増減させていない。

 今回の予算編成では、政府の基本方針案から「歳出全般にわたり、聖域なき徹底した見直しを推進する」との文言が、自民党の反対で削られた。次世代への責任を果たさず、漫然と借金を膨らませ続けることは許されない。

 当初予算には、国会の議決を経ずに内閣の責任で支出できるコロナ対策の予備費が今年度に続いて5兆円も盛り込まれた。想定外の事態への備えは必要であろう。ただ、憲法が定める国会による予算の監視機能を形骸化させてはならない。予備費を使う際は、事前に国会に使途を説明して了承を得る運用の徹底が求められる。

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