(フォーラム)プロボノ広がる
「プロボノ」を知っていますか? 仕事で身につけたスキルや経験を生かし、NPOなどを無償で支援する社会貢献活動のことです。最近では全国各地に広がり、企業が研修として採り入れるなど、より多様な展開が。地域社会を支える存在にもなりつつあります。
■専門知識持つボランティア ――プロボノとは
プロボノは、専門的知識やスキルを生かすという点がボランティアと違い、主にビジネスパーソンの社会貢献として始まりました。ですが、人のためにと思って始めたが、支援先から学ぶことも多く実は自分のためになっていた、とはプロボノ経験者が口をそろえて言うことです(これはボランティアでも同じ)。
全国各地に広まるにつれ、多様な展開をしています。プロボノを媒介として人のつながりが再構築され、地域作りとなっています。
そもそも複雑化・多様化した現代はもはや行政が全ての公共サービスを担えず、NPOが登場してきました。さらに少子高齢化や人口減に悩む現場は行政だけでは地域が維持できないという危機感が強く、プロボノと共に地域を育てよう、一緒にやろうという動きが加速しているのです。あるいは自治体のファンを増やすために、まずプロボノになってもらう。「専門的知識や経験」がなくても、勉強しつつ参加するというプロボノもいます。プロボノはますます多面的になっているのです。
(編集委員・秋山訓子)
■支援先から学ぶこと多い デロイトトーマツコンサルティングソーシャルインパクトオフィスディレクター・小國泰弘さん(49)
2011年から、NPOなど非営利団体にコンサルティングサービスを当社の社会的責任として無償で提供しています。余暇ではなくて仕事の一環であり、プロとして提供する品質はビジネスの時と同じです。これまでに社として50団体に90案件を支援。中期経営計画の立案を中心に3~6カ月ほどで行います。
参加者は会社が決めます。若い世代を中心に希望者が多いですが、中には最初、参加に戸惑う人も。が、ほぼ全員、最後には支援先のNPOのファンになり、参加できてよかったと感謝をし、多くがその後も付き合いを続けています。支援先から学ぶことがとても多いからです。
自分自身、16年にNPO難民支援協会のプロボノに参加しましたが、それまでNPOについて全く知りませんでした。が、こんな社会課題があり、それに対しこんな熱量と真剣さで取り組む人たちがいるということに心打たれました。一方で課題もあり、自分の経験を生かせると思いました。支援終了後、担当部署のマネジャーに手を挙げました。
若い世代の入社理由に、社会課題解決に関わりたいからと挙げる人が増えました。優秀な人材を引き付ける要因になっているのです。もはやそういう会社でないと選ばれなくなっています。(編集委員・秋山訓子)
■7100人が登録、NPO支援 NPO法人サービスグラント代表理事・嵯峨生馬さん(47)
プロボノを始める前の2001年に、別のNPOを立ち上げたのですが、運営の難しさを感じました。活動を理解してもらいづらい、ボランティアが途中でいなくなってしまう、アドバイスをくれる人は多くても実行までしてくれる人は少ない……。
04年に米国でNPOを視察。マーケティングやデザイン、ITなど専門知識やスキルを持つ人々が、NPOのロゴマークやパンフレットなど具体的な成果物を作る支援をしていました。プロボノたちが役割を決め、仕事が進む様子に感動し日本でも始めました。スキルを持つ人をプロボノとして募集、チームを組み、支援を求める団体につなぎます。
10年から企業と連携しています。社会貢献の一環として、企業内でプロボノチームを作ってNPOを支援。社内研修にする企業も増えました。社会課題にふれ、解決のお手伝いができます。東京都や青森県など、自治体とのプログラムも。自治体内のNPOにプロボノチームを仲介します。人口減少時代で、行政サービスだけでは住民ニーズを満たせない。地域のつながりを創出しようというのです。7100人超がプロボノ登録、延べ1100のNPOが支援を受け、25の自治体、50の企業と連携。日本を社会参加先進国にしたい。
(編集委員・秋山訓子)
◆人里離れた温泉、プロが活性化 青森、行政サービス届かぬ部分を民間で
■原田篤久さん(59) プロボノを受け入れた青荷温泉社長 人里離れた青荷温泉は、それが売りでもありますが、部屋に電気がなく、ネットも通じません。人材が確保できず困っていました。短期間でも働いてくれる人がいればと、2019年秋に岐阜県のNPOが手がける「ふるさと兼業」で仕事体験を募集しました。すると温泉や観光業に精通する人、経営のプロなど、やる気があるすごい人たちが集まりました。体験が終わった翌年にも改めて来てくれて、経営方針や作業の効率化、客の不便解消など多くの助言をしてくれました。本当にありがたい。掃除道具をほうきから充電式の掃除機に変えたり、浴室になかったシャンプー類を置いたりと改善を始めています。
■沓掛(くつかけ)麻里子さん(39) 青森の湯っこ協会代表 青森県出身で県外在住。温泉マニアで、元旅行会社添乗員。青荷温泉では数日旅館業務を経験し、翌年2月に再度集まって業務や経営の改善点を提案しました。例えば、年配の従業員もいるのだから掃除はほうきとちりとりではなく掃除機に。敷地内の釣りのできる川や満天の星などせっかくの自然をもっとアピールすべきだ、など。これを契機に青森の温泉をもっとPRしたいと青森の湯っこ協会を立ち上げました。プロボノ仲間とはお互いのイベントに呼び合うなど関係が続き、人とのつながりが生まれました。
■上明戸(かみあきと)健一さん(50) プロボノを仲介した青森県庁の文化・NPO活動支援グループマネジャー 青森県はサービスグラントと共に18年からNPOへのプロボノを仲介しています。なぜ自治体が? 青森は他県より人口減がずっと進んでいます。行政では行き届かないサービスを担うNPOなどの民間活動が縮小すると、地域は持続できない危機感があります。プロボノ参加者からは、顔の見える関係ができた、ありがとうの言葉がうれしいなどの感想が。首都圏の人もリモート参加できるようにしました。青森に興味を持ち関わってくれる人を増やしたい。(吉備彩日)
◆転職中・退職後にも協力できた 山口、新たな出会い・やりがい発
■藤本育栄さん(51) プロボノを受け入れた山口県のがん経験者の助け合い団体ポポメリー代表 がん経験者同士が助け合う「ピアサポート」をする団体を昨年立ち上げました。直後に、県内のプロボノを仲介するNPOの紹介で、プロボノの皆さんにヘアドネーションを広めるための動画撮影をお願いしました。ウェブ製作ができる男性にホームページ作成も。資金もなく、プロボノがいなかったらここまでの活動はできなかった。忙しいなか無償でやってもらい、申し訳ないとも思います。だからこそ、この団体に関わったことに誇りを持ってほしいと連絡を取り続けています。
■吉冨昌宏さん(42) ポポメリーでウェブ製作 転職しようとWeb製作の専門学校に通っていた時、実践的に学びたいとポポメリーのプロボノに加わりました。仕事と並行しての作業は大変でしたが、良い勉強になりました。顧客との関係ではなく、自分が団体の一員になったような気持ちで作りました。ページを訪れた人の感想を団体が教えてくれることが仕事のやる気になります。がんのピアサポートにも詳しくなり、誰かががんになったらここを紹介したいと思います。
■塩形幸雄さん(67) まちづくりのプロボノに参加する国土交通省OB 36年間、国交省で道路計画を担当。山口県で道の駅の実証実験に携わるなど、まちづくりに関わりました。今は退職して広島在住。プロボノ仲介のスタッフと知り合い、昨年から4団体でまちづくりを支援しました。仕事で培ったノウハウが地域に生かされるのがうれしい。
■笹岡佑裕さん(27) 酒造メーカーで販売促進のプロボノをした会社員 福岡で働いていますが、昨年、会社の労働組合を通じ、プロボノとして山口県・山城屋酒造の日本酒の販売促進に参加。新しい飲み方を募る企画を提案、集まったアイデアを実演する様子をライブ配信しました。今でも時々、山城屋酒造を訪ねて酒を買います。プロボノで様々な人や価値観と出会い、自分が豊かになりました。(寺島笑花)
◇自分の「現在地」を知る
取材前は、プロボノといえば弁護士や税理士といった高度に専門的な資格を持つ人がするものと思っていました。が、青森の現場には、未経験のことも学びながら対応する参加者の姿が。参加のハードルは決して高くありませんでした。
県仲介のプロボノは、NPOのチラシやHP作成、課題整理といったメニューで、参加者も会社員や子育て中のママなど。自身も参加した県庁の上明戸さんは「意外と公務員にもできることがあった」。あるママも「HPなんて作れないって思ってたけど、勉強したらできた」とからり。期限付きの即席チームで課題に向かい、成果を出しつつ自己分析にもつながる。あれ、なんだか就活みたい。でもみんな楽しそう。
プロボノは参加者にとって、自分の「現在地」を洗い出し、自分にできること、したいことを見つめ直せる。人生の指針を探るきっかけになっているのかもしれません。(青森総局・吉備彩日)
◇異なる目的、同じ着地点
「プロボノって何?」から始まった取材。当初は副業の一種かと。取材を経て自己実現の手段だと知り、さらに見方が変わりました。
山口では県の委託で、NPOが県内団体と県外プロボノを仲介しています。地域に関心を持ち、足を運んでくれる関係人口を増やすねらいがあるといい、「故郷に関わりたい」と参加する人もいるそうです。
行政の手が届きにくい社会課題に取り組むNPOの多くが、人材や資金の不足にあえいでいる現状も見えました。専門技術を持つプロボノワーカーは救世主です。また、プロボノを通じてできた住民同士の話し合いの場を、大切に継続させている地域もありました。
プロボノの参加者、受け入れ側、仲介する団体。それぞれ目的が異なります。でも、着地点は一緒でした。プロボノが地域活動を支え、地域活動に不可欠な存在になりつつあったのです。
(山口総局・寺島笑花)
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◇次回のフォーラム面は来月16日に「動物の幸せって」を掲載します。
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