(社説)いじめ防止 被害の訴え軽視するな

[PR]

 全国の教育委員会はこの事件を他山の石として、いじめ被害の訴えに真摯(しんし)に向きあい、その根絶に取り組まねばならない。

 埼玉県川口市立中学校の元生徒が、友人にいじめを受けたのに学校や市教委が適切に対応しなかったなどと訴えた裁判で、さいたま地裁は55万円の損害賠償の支払いを市に命じた。

 市側はいじめはなかったと主張したが、判決は元生徒が自傷行為に及んだことなどを踏まえて、その事実を認定。不登校期間は30日を過ぎ、いじめ防止対策推進法が定める「重大事態」にあたるのに、市教委は必要な調査を怠り、教員らを指導しなかったと結論づけた。

 あきれるのは、文部科学省や県教委から法に基づいて対処するよう、50回以上にわたって指摘されながら、市教委が姿勢を改めなかったことだ。その揚げ句、裁判で「防止対策推進法は『いじめ』の定義が広すぎて、欠陥がある」と唱えた。法律を誠実に執行すべき行政機関として許されるものではない。

 川口市では、17年と19年に市立中でいじめを受けた生徒らが亡くなっている。19年のケースでは、自殺未遂が3回繰り返された後、市教委はようやくいじめを認めた。今回、市は控訴を断念したが、これまでの経緯を見ると、いじめを軽視する姿勢や認識の甘さは明らかだ。

 同市に限らず、教委や学校の言動が被害者側の不信を呼ぶ例は後を絶たない。

 文科省も問題視し、都道府県教委などにアンケートを行い、いじめ調査マニュアルの整備状況や市町村教委への支援策などを確認しようとしている。必要に応じて改善を求めるという。

 市民団体からは法改正を求める声もあがる。教委や学校の対応を検証する第三者機関を文科省に設置し、不適切な場合は是正を勧告できる仕組みの導入などを提唱している。

 国がどこまで介入すべきかは議論のあるところだが、事態はそれほど深刻だと言うことができよう。議会も問題意識を持ち、住民の代表として地元の教委や首長の動きをチェックする必要がある。

 先日閣議決定された子ども政策の基本方針は、新設する「子ども家庭庁」が学校外でのものも含め、いじめ防止策全般を担うことを打ち出した。学校や教委のルートとは別に、被害者が直接相談できる窓口を各地に設けることも検討している。覚知までどんな経路をたどるとしても、文科省との連携が求められるのは言うまでもない。

 基本方針の冒頭に書かれた理念である「子どもの視点、子育て当事者の視点」に徹することができるのか、試される。