SDGsの時代、世界市民とは 朝日教育会議

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 ■創価大×朝日新聞

 SDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けて、国境を超えて活躍する「世界市民」の存在が求められている。2021年に創立50周年を迎えた創価大学は「『世界市民』としてSDGsの時代を生きる」をテーマに、朝日新聞社と大型教育フォーラム「朝日教育会議2021」を共催。国際社会で必要とされる人材や役割について議論した。

 【昨年12月4日に開催。インターネットでライブ動画配信された】

 ■基調講演 日本を多角的に捉え直し、繁栄志向から転換 日本総合研究所会長・多摩大学学長、寺島実郎さん

 SDGsの考え方は、どのあたりから始まったのでしょうか。1972年に、世界の科学者や経済学者が集う民間組織ローマクラブが発表した、「成長の限界」という報告書につながります。資源浪費や環境悪化について警鐘を鳴らす内容でした。

 では、今日(こんにち)SDGsに取り組むには何をすべきか。まずは日本が置かれている現実としっかり向き合わなければなりませんが、戦後の社会科学教育がそれを阻害しているとも言えます。例えば、多くの日本人が米国の影響を受け過ぎており、米国を通して世界を見ている。欧州や途上国など多角的な視点から世界を見なくてはなりません。

 また、高校教育で日本史と世界史を別々に学んできたことで、近代日本がどのように世界とつながり、どんな道を選択してきたのかを理解していない人があまりにも多い。日本の近代史をグローバルヒストリーの中で捉えられていないのです。

 そして近年、ヒトゲノム解析のような生命科学や、AI(人工知能)などの情報科学が日々進化し、人間としての真価が問われるようになりました。コロナ禍によって、戦後の日本人が信じてきた「繁栄が平和と幸福をもたらす」という思想が揺らぎ始めたようにも見えます。

 こうした背景をふまえ、日本経済の実態を表す数字を見ていきましょう。

 戦後の日本は鉄鋼や自動車、エレクトロニクスなどの産業で外貨を稼ぎ、「工業生産力モデルの優等生」として成長を続けてきました。IMF(国際通貨基金)などの資料によると、世界の国内総生産(GDP)に占める日本の割合は、1994年時点で18%近くまでありました。2000年には14%に下がったものの、依然としてアジア随一の経済大国でした。それがリーマン・ショックなどを経て、20年には6%まで減少しています。IMFの見通しでは、30年には4%まで落ち込むと予想されています。

 日本政府の調べでは、かつて国家の経済力を示す指標であった粗鋼生産力は、この20年で21・9%減少しています。エチレンや自動車など、ほかの基幹産業の生産力もおよそ2割減。私たち国民の生活は、現金給与総額が00年~20年の間に8・5%減少し、全世帯の消費支出も12・3%減りました。

 第2次安倍政権が掲げた「アベノミクス」は金融緩和成長戦略によってデフレを脱却し、年間の名目GDP600兆円を目指すものでした。ところが、20年度のGDPは約536兆円にとどまりました。政府は「コロナの影響」とし、一切の反省がないままです。こうした数字が示す日本の現実から目をそらしてはいけません。

 一方、日本を除くアジア諸国のGDPの総和は00年~20年の間に、7%から25%まで増加。世界における日本の存在感は薄れ、中国をはじめとするアジア各国が台頭する時代にシフトしました。

 日本が持続可能な発展をとげるためには、どのような方向に進めばいいのでしょう。デジタルトランスフォーメーション(DX)に代表される「イノベーション」は大きな活力となります。しかし、国民が本当に幸せに暮らすためには、これまでの「繁栄のための産業」から、「安全・安定のための産業」へと意識の変革が必要です。

 重要になってくるのが、成長志向の中で置き去りにされてきた産業基盤の強化、つまり「ファンダメンタルズ」です。食品関連では生産、加工、流通などの産業を強化し、食料自給率を70%まで上げるべきだと考えます。医療や防災関連産業の強化も急がれます。

 複雑化する社会を生き抜くためには、「知の再武装」が必要です。大学は18歳の若者を対象にした教育が中心でした。しかし今後は現役社会人やリタイア世代など、より幅広い年代の人が大学で学ぶようになるでしょう。教育が果たす役割はますます大きくなると考えています。

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 てらしま・じつろう 早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産に入社。米国三井物産ワシントン事務所長、三井物産常務執行役員などを歴任し、現職。国土交通省など国の審議会委員を多数務めてきた。著書やメディア出演も多数。

 ■パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは寺島さん、創価大学の馬場善久学長、国連難民高等弁務官事務所のナッケン鯉都・駐日首席副代表、SDGs市民社会ネットワークの新田英理子理事・事務局長の4人が登壇し、議論した。

 (進行は中村正史・朝日新聞社教育コーディネーター)

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 ――SDGsへの取り組みが広まっています。世界から日本を見た時、現状をどう捉えていますか。

 ナッケン 国連の仕事でフィジーやイタリア、エチオピア、ベトナムなどを経て、22年ぶりに帰国しました。海外からの視点で日本の立ち位置を考えた時、まだまだ課題が山積していると感じます。ジェンダー問題もその一つです。さまざまな立場の人が声を上げることで、社会が変わるきっかけになるのではないのでしょうか。

 新田 日本のCSO(NPOやNGOなどの市民社会組織)をつなぐネットワーク組織で、SDGs達成に向けた政策提言やコンサルティングをしています。各国の達成状況を分析した「持続可能な開発レポート2021」で、日本は前年から順位を下げ、18位でした。中でも、ジェンダー平等や気候変動対策など五つの項目で、「深刻な課題がある」と指摘されています。SDGsという言葉は広まりましたが、私たちにはまだやれることがあるはずです。

 ――SDGsという言葉を聞かない日はありません。一方、SDGsに関する議論は表面的なものが多く、根本的な解決につながっていないという批判もあります。

 寺島 日本には5万を超えるNPOがあるそうですが、その多くが厳しい経営状況の中で活動しています。例えば米国では非営利団体に寄付をすると、その金額に応じて税制優遇が受けられる制度が定着しています。すると、「応援したい」「共感できる」と感じる団体に寄付をするインセンティブ(動機付け)となり、誰もが「一人一つのNPO」を持つようになります。日本においても社会全体でNPOやNGOの活動を支える仕組みに変えていく必要があります。

 またジェンダー問題に関しては、最近、上場企業の役員に女性の姿が目立つようになってきました。「飾り」のようなポジションではなく、経営本体を支える女性たちが現れ始めているのです。これは一筋の光だと言えます。

 馬場 大学も真剣に取り組まなくてはなりません。本学では2000年ごろから、平和や人権など、地球規模の課題について学ぶ共通科目を設けています。また、世界63カ国・地域の227大学と協定を結び、多くの学生が海外で学んだり、留学生と交流したりしてきました。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長など国内外の識者による講演会も開催し、多様な考えに触れる機会を提供しています。

 ――SDGsの実現に向け、国際社会で活躍する「世界市民」の育成が求められています。

 寺島 少し前まで日本の産業界のトップ層は、海外で経験を積んできた人たちで占められていました。しかし、世界における日本の存在感が薄れてきて、今では真の意味で国際的に活躍する日本人が少なくなっています。そんな内向きになった社会でグローバル人材を育てるには、学生のうちから海外に出て、体験することが重要です。

 ナッケン 世界を知るためには、まず日本を知ることが大切です。戦争体験公害問題など、自分の国の歴史を知った上で初めて、相手の痛みを自分事として理解できるようになります。

 馬場 「世界市民」とは相手の立場で考え、痛みを理解し、他者と協力できる人だと考えています。本学では10年度から、国際社会での活躍を目指す学生に向けて、学部横断型の「世界市民教育プログラム」を開始しました。少人数制のきめ細かい指導のもと、実践的な英語力を身に付け、ゼミや海外短期研修などで問題解決力を磨いています。

 寺島 近年の教育は、専門性を高める方向に向かっています。しかし、SDGsのような大きな課題に立ち向かうには、さまざまな知を結集した「全体知」が必要です。コロナ対策において、ウイルス学や経済学などの専門家がチームで取り組んでいるように、いろいろな知が集まって初めて困難を乗り越えることが出来ます。

 ――コロナ禍でさまざまな社会問題が浮き彫りになりました。

 新田 NPOやNGOは、社会に潜む問題にいち早く気づき、世の中に知らせるアンテナだと思っています。コロナ禍をきっかけにネットカフェ難民外国人労働者の問題などが危機感をもって報じられるようになりましたが、ずっと前から警鐘は鳴らされていました。コロナ禍で問題に気づいた人たちが自ら考え、行動に移してくれることを期待しています。

 ナッケン 世界的に見ても、日本人が困難を乗り越えていく力は素晴らしいと感じています。大きなピンチをチャンスに変え、新しい社会を築いていければよいと思っています。

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 ばば・よしひさ 創価大学学長 1953年生まれ。創価大学経済学部卒業、カリフォルニア大学サンディエゴ校経済学研究科博士課程修了。創価大学経済学部教授、副学長などを歴任し、2013年より現職。専門は計量経済学。

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 なっけん・りつ 国連難民高等弁務官事務所駐日首席副代表 国際基督教大学卒業、ニュースクール大学非営利団体経営修士課程修了。国連開発計画のエチオピア国連常駐調整官事務所長、国連人口基金スリランカ事務所代表などを経て、2021年6月より現職。

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 にった・えりこ SDGs市民社会ネットワーク理事・事務局長 1970年生まれ。富山県高岡市出身。大学卒業後、民間企業などを経て、98年より日本NPOセンターに勤務、2014年から事務局長。17年からSDGs市民社会ネットワークと兼務し、19年より現職。

 ■最前線での活動、原点は大学時代 会議を終えて

 「世界市民」「SDGs」をキーワードに、時宜を得たテーマで議論が展開された。参加者の関心は高く、事前に「SDGsでは温暖化は解決しないのでは」など多くの質問が寄せられていた。本番前に4人にこのことを話すと、「本当のことを話しましょう」と士気が上がった。

 寺島実郎さんの基調講演は「SDGsは、ともするときれいごとになる。薄っぺらい、表面的な議論ではすまない」という刺激的な言葉から始まり、SDGsの本質を解き明かした。国連やSDGsの最前線で活動するナッケン鯉都さん、新田英理子さんは、これまでの経緯と現在の活動を語り、寺島さんに「この人たちは本物」と評された。

 創立50周年を迎えた創価大学の中長期計画「グランドデザイン2021―2030」の四つの柱は、教育、研究と並んでSDGs、ダイバーシティーだ。国連関係の機関など海外で活動する卒業生も多い。議論の中では、人材育成のために大学教育の重要性が指摘され、「学ぶこと、知ることが大事」と各自が語った。ナッケンさんも新田さんも大学時代の体験が今の活動の原点にある。

 寺島さんが語った「一人一つのNPOを持とう」というのは、私たちが具体的に行動するための手がかりになると思った。(中村正史)

 <創価大学> 1971年創立。建学の精神に「人間教育の最高学府たれ」「新しき大文化建設の揺籃(ようらん)たれ」「人類の平和を守るフォートレス(要塞〈ようさい〉)たれ」を掲げ、東京都八王子市にある広大なキャンパスに8学部10学科をもつ。国際交流が盛んで、多様な人々と合意形成を図り、価値創造を実践する「世界市民」の育成に取り組んでいる。

 ■朝日教育会議2021

 9の大学と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者・視聴者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。概要紹介と申し込みは特設サイト(https://aef.asahi.com/2021/別ウインドウで開きます)から。すべてのフォーラムで、インターネットによるライブ動画配信を行います。(来場者募集の有無はフォーラムによって異なります)

 共催大学は次の通りです。大阪公立大学、共立女子大学、創価大学、拓殖大学、千葉工業大学、東京女子大学、東京理科大学、法政大学早稲田大(50音順)

 ※本紙面は、ライブ動画配信をもとに再構成しました。