ぐるり「布の森」、わくわくに染まる 99歳の染色家・柚木沙弥郎展=訂正・おわびあり

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 センスあふれる型染め作品で人気の高い、染色家でアーティストの柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)の多彩な表現を紹介する「柚木沙弥郎 life・LIFE」展が東京都立川市で開かれている。美しさと楽しさに満ちた展示に、99歳の作家は「展示してもらってよかった」と話す。

 「はじめは絵本の原画が展示され、私の家にあるおもちゃやガラクタのようなものがある棚なんかがあって、それを見ていくうちに渦巻きの動線で、『布の森』に入ってゆきます」

 柚木の言葉通り、展示は会場の「PLAY!MUSEUM」(内装設計・手塚建築研究所)の渦巻き状の展示壁を生かして展開する。「観賞と同時に、楽しむ要素が強い展覧会。私の作品は工芸なので、楽しんでいただかないと。子供さんを連れた若いご夫婦らがたくさん来ているようです。とても幸せです」

 柚木は東京帝国大で美学・美術史を学んでいるときに学徒動員で海軍に配属され、復員後は岡山県大原美術館に勤務した。そこで柳宗悦が唱えた「民芸」と出あい、染色家の芹沢けい介に師事。女子美術大の教授や学長も務めた。

 その染色作品は、1950~60年代のものから2020年のものまで約50点が「布の森」と題されたコーナーに集まる。ほとんどが壁にかけるのではなく天井からつられている。「両面が染まっている。片側から見たあと、反対からも見られる」展示だ。

 どれも派手すぎない色彩で、心躍るような楽しさがある。人の顔や鳥を図案化した具象的なものから、幾何学的な抽象表現まで多彩だ。東洋的な美意識も西洋的なセンスも感じさせる。「私のおやじは洋画家でパリの話も聞かされたし、大原美術館でも西洋美術を学びました。一方、民芸を知ってからは、日本のことにも興味を持ちましたね」

 どの時代の染織も魅力的に映るが、10年ほどまえに旧チェコスロバキア出身のズビネック・セカールの作品を見て、「作品にある精神性に非常に打たれた」と明かす。自作には、厳しく自分を見つめる精神性があるのか、と問い詰めて制作するようになったという。

 一方、絵本については「言葉がたくさんない方が、子供も大人も想像できる」と語る。会場には、谷川俊太郎やまどみちおの言葉による絵本原画が並ぶほか、柚木自身が文も手がけた絵本の原画もある。

 ネコの親子を描いた「ぎったんこ ばったんこ」(2000年)もその一つ。「朝起きて天気がいい、公園に行ってぎったんこばったんこ(シーソー)で遊んで、疲れたら家に帰る。それだけですが、大人は自分の物語として話をすればいい。それを聞きながら子供も入り込んじゃう」

 染色でも絵本でも、貫くのは「見るということは楽しい」という思考だ。「例えば病院にいたとしても、こういう(病院の)仕事もあるんだと発見できると面白い。特別な時でなくても、自分でつかんでくる力があれば、楽しい」

 その達人として挙げたのが民芸の柳や芹沢だ。「彼らは古いものの中に新しい健康な美しさを見つけた」

 10月には100歳になる。「間違いではないかと思うぐらい平和に100歳になっちゃう。気力があればつかみとることはできますね。新年になって頑張ろうと思っています」

 柚木は今、展覧会に向けてリトグラフの原画を描いている。(編集委員・大西若人

 ▽30日まで。PLAY!MUSEUMは東京都立川市緑町3の1。

 <訂正して、おわびします>

 ▼11日付「彩る」面の染色家・柚木沙弥郎さんの展覧会の記事で、柚木さんが東京帝国大で美学・美術史を学んでいるときに「出征し」とあるのは、「学徒動員で海軍に配属され」とすべきでした。柚木さんは海軍に配属後、静岡県で終戦を迎えました。

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