(社説)迫る北京冬季五輪 懸念と不信の解消遠いまま

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 強大な隣国の首都で、間もなく冬季五輪が始まる。

 選手はもちろん、多くの人が開幕を待っていることだろう。

 一方で、指摘されてきた数々の懸念や不信の解消は遠く、いまも引きずったままだ。

 収束する気配のない感染症への恐れ。中国が抱える深刻な人権問題。それらに目をふさいで、開催ありきで突き進む国際オリンピック委員会(IOC)の独善的な体質――。

 何をめざした、誰のための五輪なのか。大会中も、そして閉幕した後も、この疑問に向き合い、問い続ける「冬の祭典」になるのは間違いない。

 ■隔絶された環境で

 今回の五輪は、世界の感染者が連日のように300万人を数え、約1万人が命を落としていくなかで挙行される。

 昨年の東京五輪パラリンピックについて、社説は地元国のメディアとして、予定されていた夏の開催の中止を求めた。

 心配したとおり、期間中に感染爆発と医療逼迫(ひっぱく)が起き、診療を受けられぬまま自宅で亡くなる人が相次いだ。一方、大会組織委員会をはじめとする主催側は、大会参加者に絞った陽性率の低さなどをもとに「成功」をアピールし、現実社会と五輪がパラレルワールド(並行世界)にあることを浮き彫りにした。

 その構図は北京も変わらず、一層顕著になっている。

 ワクチンの普及や公表されている現地の感染状況、夏季大会と比べたときの規模の小ささ、そして、その強権的なやり方の是非はともかく、「検査と隔離」を徹底する中国政府の措置によって、リスクは低減されるとの見方が一般的だ。

 しかし、それと引き換えに失うものは多い。

 外国からの訪問者と開催地の市民が、人種や国の違いを超えてふれ合う機会はない。国内観客も競技会場に入ることを許されず、選手は東京大会よりもはるかに厳しい「バブル」の中で行動を著しく制約される。一番リラックスでき、親交を深める場であるはずの選手村でも、食事は天井から機械経由で届き、「孤食」を強いられる。

 市民不在、交流不在。この「隔絶」こそ、東京から引き継がれる今大会の大きな特徴といえるだろう。

 ■大会の「成功」とは

 国際社会と中国の間にも、深い隔絶がある。

 各地で北京五輪に反対するデモは絶えない。香港や新疆での重大な人権侵害に多くの人が心を痛め、中国での開催を支持できないと訴えている。

 共産党政権はこうした声に正面から向き合わねばならない。異論を力で封じ込めようとしても、反発は高まるばかりだ。

 ところが現実は、いつもの統治手法を五輪に持ち込むのではないかとの疑念が渦巻く。

 例えば、条件つきで認められるようになった選手の政治的な発言や行動への対応だ。東京五輪の際、サッカー女子の試合で日英両チームがともに片ひざをつくポーズをとり、人種差別に抗議したのは記憶に新しい。

 これに対し北京の組織委員会は今月19日、中国の法律や規則に反する行為は処罰の対象になると述べた。大会の成功に向けて、中国に対する異議申し立てを受け付けない姿勢を明確に打ち出し、選手らを牽制(けんせい)したと見るべきだろう。

 そもそも中国がめざす北京五輪の「成功」とは何か。

 習近平(シーチンピン)国家主席によれば、それは中国の人々が「中華民族の偉大な復興を信じる気持ちを強める」ことであり、「希望に満ちた国家のイメージを世界に提示する」ことなのだという。

 国威を発揚して政権の求心力を高め、中国の印象を改善させる。五輪の露骨な政治利用であるのは明らかではないか。

 ■ともる赤信号

 こうした中国の振る舞いにIOCは毅然(きぜん)とした態度で臨むべきなのに、女子テニス選手の「失踪」をめぐる対応のように、迎合した姿勢に終始し、不信を深めている。

 世界大戦による中止やテロ、冷戦下のボイコット、さらにIOC幹部らの腐敗などがありながらも五輪が続いてきた背景には、人間の尊厳、反差別、連帯など、五輪憲章がかかげる理想への共感と期待があった。

 ところが近年の五輪は商業・拝金主義にまみれ、開催時期から競技の開始時刻までスポンサーの意向が幅を利かす。これに東京大会によってあらわになったIOCの権威主義への反感も重なり、持続可能性に赤信号がともる。開催を引き受けられる都市が極めて限られてきていることが、何よりの証拠だ。

 環境保護の観点からも疑義が尽きない。巨大施設の建設や周辺整備に、これまで多くの資源が費やされてきた。この大会でも大量の人工雪をつくる必要があり、地域の水不足が深刻化するとの声があがる。

 視線の厳しさを認識し、あるべき五輪像を探る。自らの存続をかけて、IOCはこの課題に取り組まなければならない。

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