(社説)佐渡金山遺跡 謙虚に伝える調和こそ

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 世界遺産は、その普遍的な価値を国際社会と共有し、後世に伝えることに意義がある。国際機関との約束を果たさぬままでは、日本の姿勢が問われる。

 来年の世界文化遺産登録をめざし、政府は佐渡金山遺跡(新潟県佐渡市)を国内候補として推薦することを決めた。

 世界の鉱山で機械化が進んだ16~19世紀に手工業で金を生産した点などを、文化審議会が評価した。国連のユネスコで登録すべきかどうか審査される。

 岸田政権は当初、見送りを検討した。韓国政府が、戦時中の朝鮮半島出身者の「強制労働」を主張しており、登録の難航を予想したためだ。だがその後、安倍元首相ら自民党内の反発などに押され、推薦に転じた。

 この曲折の背景には、7年前にユネスコで登録された「明治日本の産業革命遺産」の問題がある。このときも韓国が強制労働問題を提起し、紛糾した。

 日本政府は「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者らがいた」と認め、犠牲者らを記憶にとどめる措置をとることを約束した。

 だが、ユネスコの委員会は昨年、いまだ日本の措置は不十分だとして「強い遺憾」を全会一致で決議した。12月までの報告を日本政府に求めている。

 佐渡金山をめぐり政府内で慎重論が出たのは、審査で「強制労働」に焦点があたり、当時の約束の問題が蒸し返される可能性があるためだ。

 それだけではない。「世界の記憶」(旧記憶遺産)では「南京大虐殺の記録」が登録されたのを機に、加盟国が反対すれば登録されない制度に変わった。推進したのは日本である。佐渡金山の登録を強引に進めれば、主張の整合性がとれなくなるという事情もあった。

 どんな世界遺産も複雑な歴史が絡み、評価は光と影がある。負の側面をめぐる指摘には謙虚に向き合い、加盟各国と遺産の価値を多面的に認め合う調和の姿勢を日本は心がけるべきだ。

 岸田首相は、冷静かつ丁寧な議論が求められるとし、民間の専門家の知見も積極的に活用する、と語っている。

 ならばまず、民間専門家たちが「偏向」を指摘する「明治日本」の展示施設を改善する必要がある。ユネスコの決議による指摘を軽視してはならない。

 同時に、韓国との対話を急ぐべきだ。世界遺産のみならず、徴用工問題など課題は山積しているが、岸田政権と韓国政府との本格協議は滞ったままだ。

 両国の摩擦の余波は文化、経済などに広がる。国連機関での論争に奔走するより、近隣外交を再生するのが先ではないか。