(社説)裁判のIT化 着実に課題の解消を

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 新しい技術を採り入れて使い勝手を良くしつつ、紛争を解決して人々の権利を守るという裁判の使命を見失わぬよう、心して臨む必要がある。

 法制審議会が民事訴訟法などの改正要綱を答申した。民事裁判にIT(情報技術)を全面的に導入するのが目的だ。

 提案どおりになれば、訴状や準備書面などの記録が電子化され、オンラインでの提出・交換や閲覧ができるようになる。便利になるのは間違いない。

 法廷の様子も変わる。

 裁判所が認めた場合、口頭弁論の日でも当事者や代理人は法廷に行かず、別の場所からウェブ会議方式で「出廷」することが可能になる。証人が遠方に住んでいる場合などに限って実施されている、ウェブを利用した尋問も要件が緩和される。

 手間や費用の節減だけではない。コロナ禍の初期、各地で法廷を開くことができなくなり、裁判の進行が滞った。リモートでできる手続きが広がることは、こうした緊急時の備えにもなるだろう。

 一方で懸念も同居する。

 裁判官は、証人らの話を直接聞き、表情や態度も観察することで、その人が本当の話をしているかどうかを判断する。ウェブ経由の映像と音声でどこまで正しく心証を形成できるか。また、尋問の様子は法廷に映し出されるというが、運用を誤れば憲法が定める「裁判の公開」を揺るがし、公正さが疑われることにもなりかねない。

 当事者の意向を踏まえながら、ITを使う利便性と、それによって失われるものとを見極め、的確に審理を進めていく力が裁判所には求められる。

 何より、ITに慣れない人が不利な扱いを受けたり、裁判を利用しにくくなったりするようなことがあってはならない。

 原告や被告に弁護士がついていない裁判も多い。要綱はそうしたケースについて、これまで同様、紙ベースでやり取りする道を残した。すべての人に司法にアクセスする権利を保障するのは、国の大切な責務だ。弁護士会なども相談体制の整備に取り組んでもらいたい。

 電子記録の漏出や改ざんを許さない堅牢なシステムの構築・維持も大きな課題だ。

 要綱には、当事者双方が合意すれば裁判を7カ月以内に終える制度の創設も盛り込まれた。判決までの期間を明確にして経営の効率を上げたいという、経済界の要望が背景にある。

 消費者契約や労働問題をめぐる裁判は対象外とされたが、期限ありきで不十分な審理のまま判断するようなことになれば、司法への信頼は大きく傷つく。慎重な姿勢で臨んでほしい。