(社説)米国鉄鋼関税 既成事実化を許すな

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 このままでは理不尽な貿易制限措置が既成事実になってしまう。米国が先週公表した日本の鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税の見直しは、全く不十分だ。政府は撤廃に向けた交渉を米国と続ける必要がある。

 トランプ前政権は18年、「安全保障上の脅威」を理由に、鉄鋼に25%、アルミに10%の追加関税を導入。中国や日本、欧州連合(EU)など対象国は反対を続け、政権交代でようやく米国も見直しに応じ始めた。

 日本の鉄鋼については、4月から新たに54品目に計年125万トンの無関税枠を設ける。ただこの量は、追加関税導入前の17年に米国が日本から輸入した173万トンより3割少なく、18~19年の平均にとどまる。これでは、不当な追加関税による貿易のゆがみを追認するようなものだ。アルミについては無関税枠の設定すらされなかった。

 世界貿易機関(WTO)は、一方的に関税などの貿易制限措置をとることを禁じている。安全保障が目的の場合は例外とされるが、乱用されれば自由貿易の理念が形骸化してしまう。

 今回の見直しについて、レモンド米商務長官は「米国の鉄鋼産業を強化し、労働力の競争力を維持する」、タイ米通商代表部代表は「我々の労働者中心の通商政策の重要な実施例だ」と声明でコメントした。安全保障を口実に導入した措置だが、産業や雇用の保護が目的であることは明白だ。

 自由貿易は、商品の価格低下や生産性の向上につながり、世界経済の発展の基盤になってきた。貿易で打撃を受ける人々は、雇用対策など関税以外の政策で支えるのが基本である。

 バイデン政権が、前政権の負の遺産を撤回しないのは残念だ。WTOの上級委員会の委員選任も拒み続け、紛争処理機能が停止したままになっている。就任時に掲げた「国際協調への回帰」からは、ほど遠い状況と言わざるを得ない。

 米国内でグローバル化が格差拡大の元凶のように批判され、米政府は戦後担ってきた自由貿易の推進役を放棄したかのようだ。その姿勢は一朝一夕には変わらないだろう。

 環太平洋経済連携協定(TPP)への再加盟にも否定的だ。代わりに打ち出した「インド太平洋の経済枠組み」は、製品供給網の強化など、中国に対抗する安全保障政策の色彩が濃いとみられる。

 経済安全保障の視点は軽視できないが、安保を理由にこれ以上、公正な国際通商秩序が損なわれてはならない。米国に身勝手な振る舞いを自制するよう促すことこそ、アジアの大国としての日本の役割である。