(社説)ロシアのウクライナ侵攻 秩序と民主を侵す暴挙だ

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 ロシアが隣国ウクライナへの軍事侵攻に踏み切った。

 この8年間紛争が続いていた東部地域だけでなく、首都付近も爆撃された。各地で軍部隊の侵入が伝えられている。

 国の主権を侵す明白な侵略である。第2次大戦後の世界秩序を根底から揺るがす蛮行であり、断じて容認できない。

 ■明白な国際法違反

 ロシアは国連安全保障理事会常任理事国であり、世界最大級の核武装国でもある。その大国が公然と国際法を犯した影響は甚大だ。

 欧州にとどまらず、国際社会全体の規範と価値観への挑戦とみるべき局面だ。各国は結束して行動するとともに、ウクライナを支援する必要がある。

 攻撃にさらされる罪なき市民を思うと、悲しみに堪えない。流血を抑えるためにも、日本を含む国際社会は紛争を止める対応措置を急ぐべきだ。

 第2次大戦は1939年、ナチスドイツがポーランドを侵攻して始まった。域内の「ドイツ人の保護」が理由の一つとされたが、今回も共通点がある。

 ウクライナ国内のロシア人を守るために「非武装化」をすると、プーチン大統領は演説した。だが、真の狙いは親米欧の政権つぶしにほかならない。

 欧州大陸において今回は、ナチスによる侵攻以来となる大規模な侵略だ。プーチン氏の時代錯誤の演説は、大戦の悲劇を経て築かれた歴史と国連憲章がうたう秩序を無視している。

 ウクライナはロシアが作り上げたもので我々の一部だ、という尊大な主張は、国際法で認められる余地はない。国の大小問わず主権国家は平等な権利を持つのが戦後の基本原則だ。

 第2次大戦の戦勝国として常任理事国を務めるロシアは本来、こうした原則を守る立場にある。だが今回の行動で、責任を自ら放棄してしまった。

 ■独裁が生んだ暴走

 自分たちが米欧から受ける不当な脅威を減じるには、一方的な軍事行動も許される――そんな特権意識をプーチン氏が抱いた背景には、ロシアの政治状況も作用している。

 政権に異を唱える勢力は国会から締め出され、ジャーナリストや活動家らが暗殺され、襲われる。司法も政治的な案件では政権の支配下にある。

 三権分立の体制をとってはいても、20年以上権力を握るプーチン氏のもとで独裁ができあがった。今回もロシア国民の多くは戦争を望んでいないとされるが、暴走を止められない。

 プーチン氏がウクライナの米欧接近を嫌ったのも、西側の民主主義が流入すれば、ロシアでの自らの支配体制を揺るがしかねない危機感があったからだ、との見方も根強い。

 その意味で、今回の侵攻が踏みにじったのは隣国の主権とともに、世界の自由と民主主義でもある。強権型の政治が広がる現代世界の危うさが露呈した事例としても、見過ごせない。

 バイデン米大統領は経済制裁を表明したが、どこまでロシアを抑制できるかは不透明だ。この侵攻は結果として、秩序の守り手としての米国の力が衰えたことを改めて印象づけた。

 国際安全保障をめぐる枠組みは過渡期の様相を深めている。冷戦が旧ソ連の解体で終わった30年前の一時期、米国の一極支配と呼ばれた頃があった。

 そのポスト冷戦期も、イラク戦争リーマン・ショックを経て米国が内向き志向に転じた。世界は警察官のいない無極化世界ともいわれる。

 ロシアと同様に、中国も歴史的な被害意識を背景に、既存の国際秩序に挑みかねない危うい段階にある。実際は両国ともに経済のグローバル化の恩恵を受けて成長してきたが、その互恵システムそのものの価値を顧みない行動が目立ってきた。

 ■安保再建へ協働を

 どの国であれ、自国第一主義の逸脱行動を取れば、勝者はいないのが現実だ。国際社会全体の持続可能な発展のためにも、ロシアに理性を取り戻させる働きかけが必要だろう。

 この侵攻を受け、国際社会が厳しい経済制裁を科すのは当然だ。市民の悲劇を最小限にするため、北大西洋条約機構NATO)による緊急対応も整えねばなるまい。

 同時に、ロシアを説得する外交努力を途絶えさせるのは得策ではない。短期的な停戦交渉に加え、中長期の軍備管理交渉も視野に入れて、新たな安保構造の創出を探るべきだ。

 日本には、アジア太平洋地域においても法の支配などの国際原則をまもる責務がある。中国が一方的な現状変更に動けば自らと地域の利益をどれほど傷つけるかを示すためにも、今回のロシアに対し決然たる態度で臨まねばならない。

 列強国が力で覇を競う旧時代に戻ってはならない。もはや特定の大国に頼れない今、力ではなくルールで律される国際秩序の構築をめざし、各国が協働するときだ。今回の侵攻への緊急対応は、その一歩である。