(社説)原発への攻撃 世界を人質に取るのか
人類の生命と地球環境を脅かす前代未聞の愚行というほかない。ロシアは原子力発電所など核施設への攻撃と占拠をただちに停止するべきだ。
ウクライナ各地の原子力関連施設が、相次いでロシア軍に襲われている。砲撃などの末に軍の管理下に置かれる事態が続いている。
80年代の事故で知られるチェルノブイリ原発や、欧州最大級のザポリージャ原発が制圧され、核物質を扱う研究施設にも戦火が及んだ。
攻撃で一時火災が起きたザポリージャ原発の内部映像が報じられている。「撃つのをやめろ」「全世界が危うくなる」。懸命に職員が訴える館内放送に慄然(りつぜん)とする。
原子炉建屋は無事だったというが、安心はできない。原子炉を冷却する設備が壊されれば、福島第一原発のような炉心溶融を招いていた。使用済み核燃料プールから放射性物質が拡散する恐れもあった。
国際的な武力紛争の取り決めであるジュネーブ条約は、原発への攻撃を明確に禁じている。核の惨事は地球規模で悪影響を広げ、人々が世代を超えて危険にさらされるからだ。
侵略戦争で国際法違反を重ねるロシアの行動は、最大限の非難に値する。この問題で国連安保理が開かれたのも、原発攻撃のあまりの由々しさゆえだ。
懸念は今後も続く。ザポリージャ原発は外部との通信が断たれ、軍は運転員たちに作業の報告を命じている。チェルノブイリ原発では要員の交代も滞っていると伝えられる。
原発の運転には、専門知識を備え、緊急事態に対応できる人員の輪番態勢が必須だ。国際原子力機関は、管理権限をウクライナに戻すようロシアに求めている。即刻、従うべきだ。
ロシア側には、電力インフラを掌握する戦術上の思惑があるのだろう。さらにプーチン大統領は、ウクライナ政府が核兵器開発をもくろんでいると言い始めた。侵略を正当化するために疑惑を作り上げる狙いかもしれないが、国際原子力機関はその疑いを否定している。
今回の事態を受けて、原発を抱える日本の自治体からも不安の声が出ている。日米などの原発は、航空機による衝突も考えて堅牢に造られているとされるが、戦争で攻撃されるシナリオまでは想定されていない。
核大国の正規軍が他国の原発を攻撃するという異常事態は、核施設から拭えぬリスクの底深さを浮き彫りにした。安全性の検討を改めて深める時であり、いまなお原発事故と闘い続けている被爆国・日本には、国際議論を先導する責任がある。
- 【視点】
全くのでっち上げでも、「核兵器の開発」、「大量破壊兵器の配備」を口実に主権国家に侵攻するというのは、残念ながらプーチンだけの手段ではない。全く同じ嘘をついて我が国アメリカもイラクを侵攻したのだ。 もちろん、民主主義国家のウクライナと恐