いたずらウサギを追いかけて 「出版120周年 ピーターラビット展」

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 世界中で愛される絵本「ピーターラビット」シリーズ。その出版120年を記念した展覧会が、26日から東京・世田谷美術館で開かれる。第1作「ピーターラビットのおはなし」の彩色画全点を公開するほか、貴重な初版本や、作者が監修を手がけたぬいぐるみなど約170点を紹介。ピーターの誕生前夜から現在に至るまでをたどる。

 ■第1作の貴重な彩色画、一堂に

 畑で大好きな野菜をかじり、農夫に見つかって逃げ回る……。いたずら好きなウサギ、ピーターラビットは、イギリスの湖水地方を舞台に繰り広げられる物語の主人公だ。絵本ではウサギたちが人間のようにベリーを摘んだり、買い物をしたり。いきいきと暮らす様が、精密な彩色画を添えてつづられている。

 生みの親であるビアトリクス・ポター(1866~1943)は、ロンドンの資産家の家の生まれ。小動物に興味を持ち、菌類学者を目指していたが、19世紀末のイギリスは、学問の世界で女性が活躍するのが難しい社会だった。

 挿絵画家への道に進んだポターは、ペットのウサギをモデルに数多くのスケッチや水彩画を描いた。詩集絵本の挿絵やグリーティングカードには、紳士淑女の格好で歩くウサギなどが登場。後の絵本の雰囲気を感じさせる作品となっている。

 1893年、ポターは自分の家庭教師だった人の息子ノエルが病気にかかったことを知り、励ましを込めて小ウサギの物語を描いた手紙を送った。この2枚の絵手紙に登場する4匹の名前はフロプシー、モプシー、カトンテール、そしてピーター。これが原型となり、彼女は子ども向けの本を作ろうと考えるようになる。

 手のひらサイズのノートに物語と白黒の挿絵を描き、少なくとも六つの出版社に郵送したが、結果は全て不採用。しかし、くじけることなく自費出版した私家版が評判を呼び、初版250部がすぐに完売した。購入者の中には、「シャーロック・ホームズ」で知られる小説家のコナン・ドイルもいた。

 イギリスの出版社フレデリック・ウォーン社から「ピーターラビットのおはなし」が刊行されたのは、最初の絵手紙から9年後。1902年のことだった。展覧会では、絵本の初版や出版までにやり取りされた直筆の手紙、そしてポターが描いた貴重な原画が一堂に会する。

 これまで日本語翻訳版に掲載されてこなかった挿絵も含め、彩色画全点が公開されるのは国内初。イギリスで出版された120年前の意匠で、作品を楽しむことができる。

 本展監修の河野芳英・大東文化大学英米文学科教授は、「ビアトリクスはピーターの喜怒哀楽といった感情を、しぐさで表そうとした。博物学的な目を持ち、骨格を細かく調べ、挿絵を描いていたといえる」と話す。

 ベストセラー作家の仲間入りを果たしたポターは、商才にもたけた女性だった。絵本のキャラクターを商品化するための特許を取得したのは、彼女が世界で最初と言われている。そして77歳で亡くなるまで、多数のアイテムを監修。品質やデザインを納得いくまで確認した。収益は、後にナショナル・トラストへ寄贈される土地の購入に充てられている。

 ピーターラビットは、絵本の世界を超えて愛され、長い時を経た今も多くの人の心を癒やし続けている。(小川奈々)

 ■26日から東京・世田谷美術館

 ◆26日[土]~6月19日[日]、東京・世田谷美術館。月曜日休館(ただし5月2日は開館)。午前10時から午後6時(入場は午後5時30分まで)

 ◆一般1600円、65歳以上1300円、大学・高校生800円、中学・小学生500円。未就学児無料

 ◆問い合わせ ハローダイヤル(050・5541・8600)

 ◆公式サイト https://peter120.exhibit.jp別ウインドウで開きます

 主催 世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)、朝日新聞社、フジテレビジョン、東映

 後援 世田谷区、世田谷区教育委員会

 協力 日本航空、ソニー・クリエイティブプロダクツ

 ◆入場時の検温とマスク着用にご協力ください

 ◆会期中の土日祝休日、および5月2日[月]は日時指定券を販売します

 ◆会期や開館時間などに変更の可能性があります

 ※詳細は公式サイト

 ※7月2日[土]~9月4日[日]に大阪・あべのハルカス美術館、9月15日[木]~11月6日[日]に静岡市美術館へ巡回予定

 <TM & (C) FW & Co.,2022>

 <※印はいずれもウォーン・アーカイブ/フレデリック・ウォーン社>

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