(社説)温暖化報告書 積み重ねで排出減らせ

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 気候変動の被害を減らすため、政府や産業界そして消費者にできることはまだまだ多い。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、産業革命前からの地球平均気温の上昇を1・5度に抑えるには、温室効果ガスの排出を2025年までに減少に転じさせる必要があるとの報告書を公表した。

 今秋に8年ぶりに公表される第6次統合報告書に向け、削減策の評価を第3作業部会がまとめた。第1作業部会は昨夏、温暖化の人為起源を「疑う余地がない」とし、第2作業部会は2月、温暖化への適応は限界を迎えると警告していた。

 平均気温は、すでに1・1度上昇し、現状の排出が続けば今世紀末に3・2度に達するという。国際ルール「パリ協定」では、上昇を2度よりかなり低く、できれば1・5度に抑えることを目標にしてきた。

 今回の報告書によれば、各国がいま掲げる削減目標を達成できても、地球全体ではパリ協定の目標に遠く及ばない。さらに化石燃料の消費を減らし、エネルギー転換と省エネを急ぐ必要がある。石炭火力発電のようなインフラや、長年使われる建物の対策が強調されている。

 注目したいのは、一般消費者を含む「需要側」での削減の可能性にこれまで以上に光を当てたことだ。家庭などでの対策や技術革新が削減につながりうるとの研究結果が確認されてきたからだ。社会文化的変化や行動の変容の具体例として、電気自動車への移行、公共交通や自転車通勤テレワークの活用、長寿命で修理可能な製品を使うこと、食品の廃棄や過剰消費の回避などが示されている。

 温室ガス削減は、何か一つの決め手があるわけではなく、様々な積み重ねがあってこそ目標に近づく。コロナ禍の中での暮らしは、苦しさの一方で生活様式の変化や工夫の可能性も示した。政府や自治体は、行動変容への理解を促すとともに、住宅の太陽光発電や断熱対策への補助などの施策も進めてほしい。世界が競う脱炭素技術の開発への後押しも引き続き重要だ。

 二酸化炭素排出に値段をつけて削減を促すカーボンプライシングのような施策の効果も実証されており、日本でも制度を整えることが急務になる。

 足もとでは、ロシアのウクライナ侵攻に対する各国の経済制裁が、エネルギーの調達や価格に影響し、温暖化対策にも影を落としている。安定供給や経済性の観点ももちろん大切だ。しかし、温暖化も人々の安全や生活に大きく響くことを忘れてはならない。次世代にツケを残さないためには、厳しい状況下でも対策を講じ続けるべきだ。

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