朝日新聞社編集委員の処分決定 「報道倫理に反する」 公表前の誌面要求

[PR]

 朝日新聞社は6日、外交や米国・中国を専門分野とする編集委員の峯村健司記者(47)を停職1カ月とする懲戒処分を決めた。編集委員の職も解く。安倍晋三元首相が週刊ダイヤモンドのインタビュー取材を受けた後、ダイヤモンド編集部の副編集長に公表前の誌面を見せるように要求した峯村記者の行為について、報道倫理に反し、極めて不適切だと判断した。

 ダイヤモンド編集部から「編集権の侵害に相当する。威圧的な言動で社員に強い精神的ストレスをもたらした」と抗議を受け、本社が調査を実施した。監督責任を問い、当時の上司だった多賀谷克彦・前ゼネラルマネジャー兼東京本社編集局長を譴責(けんせき)とした。峯村記者はこの問題の以前から退職の準備を進めており、20日に退社を予定している。

 調査結果によると、ダイヤモンド編集部は外交や安全保障に関するテーマで安倍氏にインタビューを申し入れ、3月9日に取材を行った。取材翌日の10日夜、峯村記者はインタビューを担当した副編集長の携帯電話に連絡し、「安倍(元)総理がインタビューの中身を心配されている。私が全ての顧問を引き受けている」と発言。「とりあえず、ゲラ(誌面)を見せてください」「ゴーサインは私が決める」などと語った。副編集長に断られたため、安倍氏の事務所とやりとりするように伝えた。記事は3月26日号(3月22日発売)に掲載された。

 峯村記者の行為について本社は、政治家と一体化して他メディアの編集活動に介入したと受け取られ、記者の独立性や中立性に疑問を持たれる行動だったと判断し、同編集部に謝罪した。

 峯村記者は社内調査に、「安倍氏から取材に対して不安があると聞き、副編集長が知人だったことから個人的にアドバイスした。私が安倍氏の顧問をしている事実はない。ゲラは安倍氏の事務所に送るように言った」と説明している。昨年、副編集長から取材を受けたことがあり、連絡先を知っていたという。

 峯村記者は「安倍氏とは6年ほど前に知人を介して知り合った。取材ではなく、友人の一人として、外交や安全保障について話をしていた。安倍氏への取材をもとに記事を書いたことはない」と説明している。

 朝日新聞社は峯村記者の行為を裏付けるために安倍氏の事務所に質問書を送った。事務所からは「ダイヤモンド社の取材を受けた際、質問内容に事実誤認があり、誤った事実に基づく誤報となることを懸念した。峯村記者が個人的に(副編集長を)知っているということだったので、(安倍氏が)マレーシア出張で時間がないこともあり、事実の誤りがないかどうかについて確認を依頼した。峯村氏からは電話で『インタビューの内容について確認はできなかった』と聞いている」との回答が寄せられた。

 ■編集権の侵害行為あった、介入は残念

 山口圭介・ダイヤモンド編集部編集長のコメント ダイヤモンド編集部が行った安倍晋三氏へのインタビュー記事について、朝日新聞の編集委員から編集権の侵害行為があったのは事実であり、私たちはその介入を明確に拒否しました。メディアは常に権力との距離感を強く意識しなければならず、中立性を欠いた介入があったことは残念でなりません。

 ■中立性疑われる行動、深くおわびします

 宮田喜好・朝日新聞社執行役員ゼネラルマネジャー兼東京本社編集局長のコメント 本社は記者行動基準で「独立性や中立性に疑問を持たれるような行動はとらない」と定めています。編集委員の行為は、政治家と一体化してメディアに圧力をかけたと受け止められても仕方がなく、極めて不適切です。ダイヤモンド社と読者のみなさまに深くおわびします。取材対象との距離の取り方を誤り、読者からの信頼を揺るがす大変重い問題と受け止めています。報道倫理についての指導を改めて徹底いたします。

  • commentatorHeader
    岡本峰子
    (朝日新聞仙台総局長=多様性と社会)
    2022年4月7日22時31分 投稿
    【視点】

    同じ社で働く者として、朝日新聞記者の取材とそこから生み出された記事を信頼して読んでくださっている読者の皆さまに、まずお詫び申しあげます。失われた信頼を回復するために、いち記者としても反省し、そして後輩たちを指導したいと思います。 峯村記者

  • commentatorHeader
    曽我豪
    (朝日新聞編集委員=政党政治、教育改革)
    2022年4月7日13時40分 投稿
    【視点】

    権力者を取材する上で幾つか、肝に銘じてきたことがあります。政治部の先輩からの言い慣わしでもあります。 「最後は書け。書くことが一番の抑止力になる」「確認するなら、トップにあたれ。権力の意思を二次情報で書くな」「政治家の言い分を書くのは良い