(社説)日韓関係 「現金化」回避が急務だ

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 韓国では来月10日に、新しい尹錫悦(ユンソクヨル)政権がスタートする。1カ月後の就任に向けて、準備作業が加速している。

 首都中心部にある「青瓦台」と呼ばれる大統領府の機能を別の場所に移し、国民との距離感を縮めるという。新時代の到来を印象づけようと躍起だ。

 外交安保について、尹氏は今の文在寅(ムンジェイン)政権の路線を大きく転換させることを明言してきた。先日、自らの親書を外交顧問らに託して訪米させたのは、米韓同盟の強化が急務だという認識の表れだろう。

 日本との関係も、冷却状態のまま放置できないと訴えている。徴用工慰安婦といった歴史問題に加え、安全保障、通商など多岐にわたる懸案を、包括的に打開したい、という。

 前向きな呼びかけは評価できるが、次期政権の取り組みを気長に見守れるほどの余裕は、いまの両国関係にはない。徴用工訴訟で確定した日本企業資産の現金化に向けた手続きが着々と進んでいるからだ。

 包括的な解消を図るにせよ、冷静な協議が可能な土台作りが必要だ。次期政権に引き継ぐ負担を少しでもやわらげるためにも、文政権には最後まで関係改善に向けた努力を求めたい。

 根本的な解決策の提示が望ましいのは言うまでもない。だがそれが難しいのであれば、歴史の懸案は外交交渉で解決を図るという明確な意思を内外に示すだけでも効果があろう。

 現金化が実行されれば回復困難な対立を生む。韓国司法当局もその重みを認識し、執行までに異例の長時間をかけているのは明らかだ。政治指導者の責任ある発言は、交渉に時間的な猶予をもたらすことだろう。

 今後の政局運営を考えても、文政権の関与が望ましい。

 国会議席の約3分の2を占める今の与党は尹政権発足後、巨大野党に転じる。仮に徴用工問題で日韓両政府が合意するとなれば、関連の法整備や予算措置が伴う可能性が出てくる。

 韓国立法府の拒否で合意案が進展しないという事態は避けねばならない。歴史問題を国内政争の具にせず、大局的な観点で取り組むためにも、引き継ぎ期間のうちに新旧の政権間で意思疎通を図ってもらいたい。

 日韓が直面する最大の危機を回避するためには、日本政府もかたくなな姿勢を改めねばならない。総じて韓国側が反発を強めてきたのは、長期政権を担った安倍政権が不都合な歴史事実から目を背け、謙虚な姿勢を後退させた影響が大きい。

 日韓関係の再構築を目指すという尹政権の意欲を生かし、岸田政権も健全な隣国関係を切り開く姿勢を示す必要がある。