(社説)「こども」法案 実効性高める論戦を
子どもについての政策をめぐる法案の国会審議が始まった。政府・与党案と野党の対案を合わせて議論する。子ども本位の政策の実現には何が必要なのか。十分な論戦で、実効的な仕組みづくりを目指してほしい。
政府が提出しているのは、来年4月の発足を目指す「こども家庭庁」の設置法案だ。菅前首相が行政の縦割りをなくす看板政策として打ち出し、岸田政権が引き継いだ。子どもの視点、子どもの最善の利益を考えた政策を一元的に担う「司令塔」にするという。
だが、今回統合されるのは保育や児童虐待などを担う厚生労働省と内閣府の関係部局にとどまる。幼稚園や義務教育などの所管は文部科学省のままだ。
岸田首相は衆院本会議で「専門性を高めつつ相互に調整し連携する方が施策の充実になる」と主張したが、これまでと何がどう変わるのか。新しい組織は文科省と連携していじめ問題も担うとされるが、新たな縦割りを生んだり、責任の所在があいまいになったりはしないか。今後の審議では、より具体的で丁寧な説明が求められる。
もう一つ、子ども政策の基本理念や政府・自治体の責務を定める「こども基本法案」が与野党からそれぞれ提出されている。政府は「与野党で様々な提案があり議論を注視」(岸田首相)する立場という。
与野党で分かれるのが、子どもの権利が侵害されていないかを行政から独立して調査し、改善を勧告する第三者機関の扱いだ。立憲民主党は設置を明記したが、与党は「役割が不明確」などとする自民党内の慎重論に配慮し盛り込まなかった。
こども家庭庁にも関係省庁などへの勧告権を持たせたこともあり、第三者機関の必要性や機能について、まだイメージが固まっていない部分があるのも事実だろう。ただ、同様の機関は、すでに海外や国内の自治体でも多数つくられている。与党の中でも公明党は前向きだ。
肝心なのは、子どもの権利を実際に保障することだ。そのためにどんな仕組みがいいのか。議論を深める必要がある。
子ども政策を拡充するための最大の課題は、安定した財源の確保だ。首相は国会で「こども家庭庁のもと予算を体系的に取りまとめ、将来的に倍増をめざしたい」と語ったが、かけ声だけではなく、政策を着実に進めていく具体的な検討の道筋こそが問われている。審議の中で、さらに詰めていくべきだろう。
「子どもの最善の利益を第一に考え、子どもに関する政策を社会の真ん中に据える」。首相の意気込みを、言葉だけに終わらせてはならない。
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