(社説)日銀と円安 影響の見極め、細心に
日本経済のかじ取りが複雑さを増している。政策判断が市場の変動を増幅させたり、消費者や企業の心理を悪化させたりしないよう、細心の注意と丁寧な説明が必要だ。
日本銀行が28日に大規模な金融緩和の継続を決めた。直後に外国為替市場では円が急落し、1ドル=130円台に突入した。長期金利操作の運用を変えたことが緩和姿勢の強化と受け止められ、円売りを誘ったようだ。
利上げを急ぐ米国との金利差拡大が背景とはいえ、2カ月弱で15円を超える円安は近年では異例のスピードだ。日銀の黒田東彦総裁も、急激な変動が「不確実性の高まりを通じてマイナスに作用することも考慮する必要がある」と認めている。今回の決定が、一時的にせよ「急激な変動」をあおったとすれば、判断の妥当性に疑問が生じる。
黒田総裁は一方で、円安そのものは「全体として日本経済にプラス」との発言を続ける。確かに輸出企業にとっては円安は大きな追い風だ。だが、賃上げや価格転嫁が不十分ななかでは、輸入品の値上がりで悪影響を受ける家計や企業も多い。
日銀は1月のリポートで2000~19年のデータを分析し、円安の実質GDPへの効果は、近年も含めプラスだったとの結果を示した。輸出の量は増えにくくなったが、海外での収益が国内に還流し、設備投資を押し上げているという。差し引きプラスならばマクロ経済の視点からは円安は好ましく、国内での格差の調整は政府の役割になるというのが日銀の立場だろう。
だが、コロナ禍やロシアのウクライナ侵略を経て、経済環境は激変した。過去のデータが現状でどこまであてはまるのか、一段と慎重な現状分析とその説明が求められる。政府による所得再分配にも限界がある。円安が加速して、負の影響がさらに広がった場合に備え、日銀も選択肢を検討しておくべきだ。
今回日銀は、今年度の消費者物価の上昇率見通しを1・9%に引き上げ、経済成長率の見通しは2・9%に引き下げた。物価上昇率は数字だけみれば日銀の2%目標に近づくが、主因がエネルギー高騰で、賃上げも十分でない現状では「持続性に乏しい」(黒田総裁)という。
エネルギーや原材料の高騰は海外に所得を流出させ、景気を下押しする。回復を支えるために金融緩和を続けるのは現時点では妥当な判断だろう。
ただ、身の回りの品の値上がりが続けば、人々のインフレ予想が上向く可能性もある。米国の当局は、昨年来の物価上昇を当初「一時的」と見誤った。予断を持たずに政策判断に臨むことの重要性を再確認すべきだ。
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