(社説)大学ファンド 疑問の解消はるか遠く

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 これで国際競争力が強化されるのか。学問・研究の土台である自由な発想が損なわれ、逆の結果を生むことにならないか。疑念は深まるばかりだ。

 「国際卓越研究大学」法案が先月末に衆院を通過し、参院に送られた。財政投融資を主な原資に10兆円の基金(ファンド)を設け、運用益を年間3千億円まで、政府が認定した大学に配分しようという法案だ。お金は研究者の確保や育成、施設整備などに充てることができるが、その事業計画も政府の認可を得なければならない。

 国が予算を投じることに異論はない。しかし支援を受けるのは数校に限られ、その大学も様々な制約下に置かれてかえって発展の足かせになりかねない。社説はそう指摘し、是正に向けて議論を尽くすよう唱えた。だが文部科学委員会での質疑は、納得ゆく内容に遠かった。

 例えば大学と政府の関係だ。国際卓越研究大学の認定や計画の認可には、文部科学省に加えて総合科学技術・イノベーション会議も関わる。政治が研究や教育に介入する事態を心配する質問に、政府は「会議には学術界の委員もいる」などと述べ、その恐れを否定した。会議は首相が議長を務め、14人の議員のうち閣僚が6人を占める。どこまで歯止めになり得るのか。

 日本の研究力の低下は、目先の成果を求め、地道な基礎研究をおろそかにした科学技術政策の帰結だというのが大方の評価だ。これについても政府は「一定の役割は果たした」として深い検証や反省はなく、今回の構想で期待できる具体的な効果の見通しも示さなかった。

 「卓越」とされた大学は、運用益を受け取るだけでなく、独自に民間資金を獲得したり寄付を募ったりして、事業規模を拡大し続けねばならない。成長が優先され、研究や学問をゆがめる危険はないか。基金は年4・38%(物価上昇率を含む)の運用益を確保できるのか――。こうした問いにも説得力のある答えがあったとは言い難い。

 研究とはトップ校の奮闘でどうにかなるものではなく、それを支える広い裾野が不可欠だ。ところがあわせて行われる一般の大学への支援の予算は400億円余にとどまる。努力して博士号をとっても、就職口の大半が任期付きの不安定なポストでは、有為な人材が研究の道から遠ざかるのは自然の理だ。

 日本の科学技術の水準向上や学術の発展を真にめざすのであれば、こうした状況の改善にこそ、まず取り組むべきだ。

 拙速な制度発足は将来に禍根を残す。参院の審議では、多くの疑問や懸念に対する政府の明確な答弁を求める。

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