(社説)地質に親しむ 大地に関心 変わる風景

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 ふだん気にとめなくても、「地質」は災害や開発など日々のくらしと深く関わっている。

 表土の下にどんな岩石や地層があるかを示す地質図は、地図と同じく、国土を把握するための基本データといえる。

 その地質図を作成する国の機関が、産業技術総合研究所地質調査総合センター(GSJ)だ。前身の旧地質調査所の設立から、今年で140年になる。日本で初めて広域的な地質図ができたのはその6年前で、完成した5月10日は「地質の日」と定められている。これを機に、足元に広がる世界をのぞいてみてはどうだろう。

 地質調査の歴史をたどると、その時どきの社会の様子や課題が浮かび上がる。

 最初は「富国」をめざして石炭などの資源の探査が目的だった。第2次世界大戦の頃は軍需省の所属に。戦後は海洋地質の調査や地熱開発、最近は地震を引き起こす活断層や、過去にあった大津波の解明などで注目を集めた。気候変動対策として、二酸化炭素を地中に貯留する技術への貢献も期待される。

 ところが全国の地質図の整備はなお途上にある。20万分の1のものは2010年に完成したが、精度が高い5万分の1は、国土の76%程度しかカバーできていない。専門家が実際に現地を歩いて調べる必要があり、手間がかかるからだ。

 GSJは近年、地下利用の頻度が高い都市圏の地層分布を立体的に示す地質地盤図を続けて作成し、先月には火山噴火が起きた時の推移を予測して被害の軽減を図る「火山灰データベース」を公開した。いずれも長年の蓄積に支えられたものだ。ただちに役に立たなくても、地道な整備を怠ればこうした果実を受け取ることはできない。

 そのためにも、野外調査ができる人材の育成に取り組む必要がある。ところが地質学は地味な学問で、大学での学生の人気は同じ地学分野でも宇宙や気象に集まりがちだ。興味を持つ若者が少なければ発展は望めない。高校でも地学の履修率は低く、裾野を広げることが長年の懸案になっている。

 きっかけはある。

 大勢の観客を集める恐竜展は地質学抜きに語れないし、地質の話題が豊富なNHK番組「ブラタモリ」のファンは多い。08年に認定が始まった日本ジオパークは46地域に増え、2年前には千葉県内の地層から地質年代のある時期が「チバニアン」と命名され、話題となった。

 住んでいる土地の成り立ちを知ることから始めるのもいい。新たな魅力や隠れた危険がわかり、風景の見え方が少し違ってくるかもしれない。

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