(社説)国会最終盤 参院選へ判断材料示せ

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 岸田首相が肝心かなめの疑問には答えず、お定まりの説明に終始するだけでは、とても議論は深まらない。政策課題の問題点を浮き彫りにする、野党の「問う力」も物足りなかった。このままでは、夏の参院選に向け、国民に十分な判断材料を示すことはできない。

 総額2・7兆円の補正予算がきのう成立した。そのうち1・5兆円は、支出時に国会の議決を必要としない予備費の積み増しである。財政民主主義を骨抜きにする予備費の乱用だが、衆参2日ずつの予算委員会という型通りの審議に終わった。

 国民民主党は当初予算に続き、この補正にも賛成した。玉木雄一郎代表が衆院の質疑で、「(予備費に)批判が多い。私もどうかと思う」と語っていたのにである。賛成ありきで、チェック機能を放棄したに等しい。与党との協調を最優先するのなら、参院選前に、立ち位置を明確にすべきだ。

 議論が深まらなかったテーマの典型が安全保障・防衛政策である。ロシアのウクライナ侵略や厳しさを増す東アジアの安保環境を受けた、国民の不安や関心に答えるには程遠かった。とりわけ、直前に行われた日米首脳会談についての、首相の説明回避が目立った。

 焦点のひとつが、首相が初めて表明した防衛費の「相当な増額」の「相当」の中身だった。首相は年末の国家安全保障戦略の策定や来年度予算案の編成に向けて、必要なものを具体的に積み上げていく、「数字ありき」ではない、と繰り返したが、積み上げていないものを、なぜ「相当な」と言えるのかの疑問は解けない。

 財源についても、他の予算を削るのか、増税するのか、国債で賄うのか、国民生活への影響が想定されるにもかかわらず、年末に向けて、装備の内容、予算額とセットで議論していくと述べるだけだった。参院選の争点にならないよう口をつぐんでいるのだとしたら不誠実だ。

 審議の充実には、野党第1党である立憲民主党の責任も重い。泉健太代表は衆院での質疑の冒頭、党が打ち出した「生活安全保障」の考え方の説明に時間を割いた。「政策立案型」を意識したアピールだろうが、その前提となる、現政権の政策に対する厳しい吟味をおろそかにせず、違いを明確にすることが求められる。

 今国会の会期は残り2週間。予定されている衆参の予算委の集中審議に加え、岸田政権になって一度も開かれていない党首討論も行うべきだ。争点を隠すのではなく、各党のめざすところを正面から国民に問いかける、真摯(しんし)な論戦とすべきだ。

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