(社説)中国と南太平洋 覇権争いの圧力控えよ

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 南太平洋の島々は豊かな自然に恵まれながらも、大国の思惑に振り回されてきた歴史を抱えている。この広大な海域を再び覇権争いの場にするようなことがあってはならない。

 中国の王毅(ワンイー)外相が南太平洋の島嶼(とうしょ)国を歴訪し、安全保障の協力強化を呼びかけている。軍事的な存在感を高める狙いとみられ、見返りに経済援助などを提示しているようだ。

 今回の歴訪では正式な合意には至っていないが、4月に中国はソロモン諸島と安保協定を結んだ。軍艦の寄港や、軍・警察の派遣などを可能とする内容とされるが、両国は協定の条文を公表していない。

 ソロモン側は中国の軍事基地建設などは認めないと説明するものの、米国や豪州などが懸念するのは理解できる。中国は地域の安全にかかわる不透明な動きを控えるべきだ。

 中国は近年、南シナ海東シナ海での強引な拡張路線が目立つ。習近平(シーチンピン)国家主席は「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と述べ、米国を牽制(けんせい)してきた。

 南太平洋ではかねて、マーシャル諸島やミクロネシア連邦、パラオが米国との協定を結び、軍事を含む協力関係にある。今の中国の動きは、習氏の路線に沿って勢力圏を広げる意図があるのは明らかだ。

 どの地域であれ、安保環境を一方的に変えようとすれば緊張を生む。米豪日を含む各国との対話を欠いたままでは地域の不安定化を招きかねない。

 中国の途上国援助をめぐっては各地で懸念の声が絶えない。インフラ建設などを通じて途上国に多額の借金を負わせて支配を強める「債務のわな」の問題である。

 最近、米豪日は高官を南太平洋の国々に次々派遣している。この2月には米国務長官が37年ぶりにフィジーを訪れたほか、5月に発足した豪州の新政権もさっそく外相を訪問させた。

 各国の外交攻勢で島嶼国への関心が高まり、地元の人びとの暮らしに役立つなら結構だ。ただし、競争が高じて、米国か中国かの踏み絵を迫るような圧力にしてはなるまい。

 多くの島嶼国は過去に植民地支配を受け、第2次大戦では日米の激しい戦闘の場となった。その後も米国とフランス核兵器開発の実験場に利用された。最近は先進国が多くの責めを負うべき地球温暖化の影響に悩んでいる。

 この地域を国際政治の分断の前線としてはならない。何とか中国も巻き込んだ形で、各国の共生を進める関係を生み出すことを目標とすべきだ。その環境を築く責務は日本にもある。

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