(フォーラム)子どもへの性暴力 反響編
性暴力は、子どもたちの間でも起こっています。2月に「子どもへの性暴力」第6部として取り上げたところ、読者から70通のメールや手紙が届きました。約3分の1が被害経験のある当事者からでした。寄せられた声を紹介し、何ができるのかを一緒に考えたいと思います。
■大学の先輩から…自分を責めた
●大学1年のときに一つ上の先輩から性暴力を受けた女性(45)
(中学3年の少女の性被害体験を取り上げた)デートDVの記事を読み、心の奥底にしまい込んでいた体験を思い出しました。
大学のサークル活動の後に、みんなでお酒を飲み、送ってくれた先輩から性暴力を受けました。
「酔っていた自分が悪い」と自分を責め、「恥ずかしい失敗」ととらえました。その先輩とはサークル活動でその後も毎日会わねばならず、だれにも言えず、本当につらかった。気持ちが落ち込み、酒におぼれ、大学の単位も落としました。
「被害」だと気づいたのは、2年前。インターネット上の調査で「意に沿わない性行為は性暴力です。あなたは経験がありますか」という質問があり、そこで、自分は被害者なのだと初めて気づきました。
意に反する性行為を断れないことはいくらでも起こりえます。私には息子がいますが、断り方だけでなく、性行為を強要しないこと、相手のノーを理解する力を子どもたちに伝える教育をしてほしい。私も息子にはできる限り相手を尊重することを伝え続けています。
■男の子の集団、今も怖い
●保育園で性被害を受けた関東地方に住むパートの女性(52)
40年以上前の保育園時代、お昼寝の時間に、男の子数人から性被害にあいました。性器を触るなど、行為はエスカレートしました。怖くて声が出せず、黙っていました。子ども心に、これは人に話してはいけないことだと思い、親にも先生にも言えませんでした。
ある時、小さい声で「嫌だ」と言うと、やっと行為が終わりました。その後、小学校高学年ごろには、なぜか被害について思い出さなくなりました。ただ、同級生の男の子がずっと苦手で、高校ではクラスメートと話すのも難しくなり、不登校にもなりました。今でも、電車や街で制服姿の男の子の集団を見ると、怖くなって近づくのがためらわれます。
出産後、地元の男女共同参画に関する集まりで、メンバーたちと性犯罪について話をしていたとき、突然被害について思い出しました。「自分がずっと抱えていた生きづらさの正体はこれだったのか」と、涙が止まりませんでした。
連載を読むのは、当時を思い出し、つらくもあります。でも、事件に光をあてていかないと、無かったことにされてしまうと感じています。もう相手は、小さな時のことで覚えていないでしょう。でも私は、死ぬまできっと、こうした報道や体験を目にしたときの渦巻く思いから解放されることはないのだと思います。
今もなお子どもに対する性暴力がなくならないのは、子どもに対する人権意識が低い社会の表れではないでしょうか。
■娘の被害、相談先なく
●娘が保育園で性被害を受けた神奈川県の会社員女性(41)
私の娘も、保育園のお昼寝の時間に、男の子から下着の中に手を入れられる被害を受けました。記事を見て「保育園児でも、一生心の傷になるようなひどいことなんだ」と初めて言ってもらえた気がします。
娘が被害を受けた時、相談先が見つからず、とても苦しみました。保育園に相談しましたが、「職員が現場を見ていない」との理由で、加害者の男の子やその親に連絡はせず、再発防止として布団をその子の隣にならないようにしただけでした。
児童相談所にも電話しましたが、「まずは保育園と相談してほしい」と対応してもらえませんでした。ネットで相談先を探しましたが、どこに相談していいのかがわからず、そのままになってしまいました。
娘はとても傷つき、小学生になった今でも、男子に触れられると身体がこわばり、スカートをはくのもいやがるようになりました。親として、こんな状況になったことが悲しいです。専門家のケアを受けさせることができればもう少し違ったのかもしれないと思っています。
こうした被害が起こりうることをしっかり多くの人に知ってもらいたい。そのうえで、被害児童や保護者がアクセスしやすい相談機関を整備してほしいと強く願っています。
■教わらない「性的同意」
●東京都内に住む高校2年の男子生徒(16)
デートDVの記事を読んで、とても考えさせられました。少女と相手は、対等なコミュニケーションができていなかった。少女の失望感は強く、すごくつらかっただろうと思います。
自分は、この相手の少年のように強引にはならないと思うけれど、100%断言はできない。もし彼女ができてそういう状況になったとしても、性行為の重みをきちんと思い出さなければいけないと思います。
記事にある「性的同意」が具体的にどんなもので、どう得ればいいのか、わかりません。保健体育の教科書を開いても、コンドームやピルは載っているけど性的同意の話はないし、プライベートパーツという考え方も教わった記憶がありません。このままだと、自分の世代が親になったときに子どもに何も教えられないんじゃないかと思います。
中学の時の性教育の授業は、自分も周りもがやがやして真剣に聞く雰囲気ではなかったし、先生も教えるのに慣れていない。学校のカウンセラーは女性なので話しづらい。子どもを欲しいと思うかどうか、マスターベーションのことなど、友人と話してみたい気持ちもあります。「スタンダード」がわからないから。でもどう思われるか不安になるし、真剣には話せない雰囲気だと思う。
性のことについて正確な情報を得にくく、友人や恋人ともまじめに話せないままだと、性的同意をちゃんととって対等な関係をつくることができるのか、不安になります。
■「嫌」と伝えられる教育を 助産師・有馬祐子さん(56)
東京都品川区の助産師、有馬祐子さん(56)は、長年性教育に取り組んでいます。保育園児から大人まで幅広い年齢の人に講演してきました。
今年1月に都内の保育園で講演した時は、年長児を対象に「体のことを詳しく知る、守る」をテーマにしました。人から触られて良い場所にはハート、嫌な場所には×の付箋(ふせん)を貼ってもらい、感じ方が人によって異なることを示しました=写真。
約10年前からは、講演の冒頭に自分で自分の体を触る「セルフマッサージ」を紹介しています。会場の緊張感を和らげつつ、「心地良い」「心地悪い」感覚をイメージしてもらうことが狙いといいます。
有馬さんによると、子どもは6歳ごろまでに、他者を意識し、自分が嫌と思っていることでも受け入れて行動できるようになるといいます。だからこそ、幼い頃からの性教育によって、自分が嫌と感じる接触について「嫌」と伝えられるようになること、自分と相手の感覚が違う可能性があると知ることが重要といいます。「小学校に入るまでに性教育に取り組むことは、他者との良い関係を作るためにも必要だと思います」
■加害者にも被害者にもしないために
子どもたちの間で起こる性暴力は、遊びの中で行われることも少なくないため、見えにくく、見過ごされがちです。しかし、きょうだいの間で、いじめの中で、運動部の寮や児童養護施設の中などで起こることも珍しくありません。保育園の中でも起きています。
どこでも何歳でも起こりうるのだと認識し、幼いときから、人に見せない触らせない、人のも見ない触らない「プライベートパーツ」のルールなどを教えていくことが、子どもを加害者にも被害者にもしないことにつながります。
被害を受けた子から出されるちょっとしたサインを見逃さないことも大切です。ぼーっとしていたり、反抗的だったり、動物をいじめたりするなど、普段と違う行動にSOSが隠れていることがあります。
企画「子どもへの性暴力」を2019年12月から始めました。これまでタブー視されてきた子どもの性被害を正面から取り上げています。性暴力がときに命を奪い、人生を壊すほどの影響があることを認識し、性暴力をなくす。被害にあったとしても、影響を最小限にする。そのために何ができるのかを読者のみなさんと考えたいと連載を続けています。
2月末に届いた匿名の手紙があります。「暴力をされた後の傾向が、自分のいままでを説明されているようで驚く半面、ストンとただそういうものだったんだと落ち着き、どこかで安心した」「(連載が)自分を大切にすること、人を信頼することを教えてくれました。(中略)40歳の私、思いっきり呼吸をしています。はじまり、はじまりです」
第7部以降も、障害のある子への性暴力、男の子の被害、加害者、治療や回復についても取り上げていきます。(編集委員・大久保真紀)
■性被害の主な相談先
・ワンストップ支援センター
全国共通短縮ダイヤル #8891
・サチッコ
06・6632・0699
19歳までの未然防止が対象
・#いのちSOS
0120・061・338
・全国妊娠SOSネットワーク
https://zenninnet-sos.org/contact-list
・デートDV110番
050・3204・0404
・キュアタイム
・チャイルドライン
0120・99・7777
・子供のSOSの相談窓口
0120・078・310(24時間)
◆大久保真紀、塩入彩、藤野隆晃、根岸拓朗、山田佳奈が担当しました。
◇来週19日は「SDGsってうさんくさい?」を掲載します。
◇アンケート「ランドセルのあり方について、思いをお聞かせください」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。
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