(社説)原発事故で国を免責 「想定外」に逃げ込む理不尽

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 人の生命・身体はもちろん、環境にも取り返しのつかない危害を及ぼす原発災害を、万が一にも起こしてはならない――。

 その思いがあれば、このような結論にはならなかったのではないか。国民の視点に立って、行政のゆきすぎや怠慢を監視するという司法の役割に照らしても、大きな疑念を残す判決と言わざるを得ない。

 ■理は反対意見にあり

 東京電力福島第一原発事故の避難者が起こした集団訴訟で、最高裁はきのう、国の賠償責任を否定する判決を言い渡した。

 事故の9年前、国の機関である地震調査研究推進本部は、福島沖の日本海溝寄りで津波地震が起きる可能性を指摘した。だが実際に襲来した津波はそれを大きく上回るもので、国があらかじめ東電に対策を命じていたとしても事故は防げなかった。判決はそう結論づけた。

 本当にそうだろうか。

 防潮堤の建設とあわせ、タービン建屋などの重要施設の水密化措置をとるなどしていれば、事故原因となった全電源喪失の事態は防げた蓋然(がいぜん)性が高いと、複数の高裁は判断していた。

 最高裁は、防潮堤以外の対策について掘り下げた議論はされておらず実績もないと述べた。だが、国内外の施設で一定の水密化工事をしているところはあったし、議論がなかったとすればその当否を審査するのが裁判所の役目ではないか。

 最新の知見に基づき、あらゆる事態を想定して安全第一で防護措置をとるのが、原子力事業者や規制当局の責務のはずだ。今回の判決の理屈に従えば、関係者がそろって旧来の発想と対策に安住していれば、コストを抑えられるうえ法的責任も免れることができるという、倒錯した考えを招きかねない。

 これに対し検察官出身の三浦守裁判官は、水密化措置は十分可能だったと述べ、実効ある対策をとらない東電を容認した国の責任を厳しく指摘した。

 津波予測をもとに国と東電が法令に従って真摯(しんし)な検討を行っていれば、事故は回避できた可能性が高いとし、「想定外」という言葉で免責することは許されないとの立場をとった。この反対意見にこそ理はある。

 ■社会的責任なお重く

 法的責任はないとされたものの、事故がもたらした甚大な被害について、国は社会的責任まで免れるものではない。

 一連の裁判では、国の審査会が定めた指針を上回る賠償を東電に命じた判決が、すでに最高裁で確定している。実態を踏まえた指針の改定が急務だ。

 政府は事故後に、賠償の元手となる資金を立て替える形で東電に渡し、東電と他の電力各社から数十年かけて回収する仕組みを設けた。「原発事業者の相互扶助」という理屈だが、後付けで不合理との批判は根強い。

 きのうの判決で裁判長を務めた菅野博之裁判官は補足意見のなかで、原発が国策として推進されてきたことに触れ、「大規模災害が生じた場合、本来は国が過失の有無に関係なく、被害者の救済で最大の責任を担うべきだ」と述べた。

 原発の「国策民営」方式には、責任の所在のあいまいさがつきまとう。賠償負担を国と事業者でどう分かち合うか、改めて議論が必要ではないか。

 課題はそれだけではない。放射性物質除染、損壊した原発の廃炉、被災地の復興、被災者の生活再建など多岐にわたる。これらに取り組む責務を、政府は忘れてはならない。

 ■回帰は許されない

 裁判を通じて改めて見えたのは、大手電力会社と国のもたれ合いの構図だ。

 先の三浦裁判官は当時の原子力安全・保安院について、「主体的に最新の知見を把握し、責務を果たすという姿勢には程遠いものだった」「規制権限を行使する機関が事実上存在していなかったに等しい」と評した。

 事故を受けて独立性の高い原子力規制委員会が設けられ、運転期間を原則40年とするルールも定められた。審査の厳しさを批判する声もあるが、先祖返りするようなことは、当局、事業者とも許されるものではない。

 最近はウクライナ情勢を受けたエネルギーの安定供給や脱炭素対策として、原子力の積極活用を求める声が広がる。

 たしかに既存の原発の発電費用は比較的安い、温室効果ガスが出ないといった利点がある。

 だが、原発から出る「核のゴミ」の扱い、ひとたび事故が起きたときの被害など、根源的な難しさを抱える。再稼働をめぐっても、規制委と地元自治体任せにして政府は前面に立たないなど、本来の役割を回避する姿勢はいまも色濃く残る。

 こうした問題の解決策抜きに原発復権を唱えるのは、3・11以前の無責任体制への回帰に他ならない。

 11年前のあの日、日本、いや世界が震撼(しんかん)した。当時の誓いと被災者の苦難に思いを致し、原子力の位置づけやエネルギーの将来について、正面から議論を尽くさねばならない。

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    福田充
    (日本大学危機管理学部教授)
    2022年6月18日8時10分 投稿
    【視点】

    原発の「国策民営」方式において、事故発生の責任がどちらにあるかが曖昧で、国が免責されうる構造に問題があることは間違いない。 津波予測から国と東電が法令に従って事前の津波対策をとっていれば、事故は回避できた可能性が高いと指摘した三浦守裁判官