(社説)核禁会議閉幕 廃絶へ対話求める重み
「核なき世界」へ向けて、核を持たない国々が保有国へ対話を呼びかけた。保有国はしっかりと受け止めて協力の道を探る責任を自覚するべきだ。
核兵器禁止条約の初の締約国会議がウィーンで開かれた。34のオブザーバー国も含め、80以上の国・地域が出席した。
当初の想定の倍近い規模に膨らんだのは、ロシアによる侵略などで核戦争の脅威が高まった危機感のあらわれだろう。
会議の政治宣言は、核の力で他国に攻撃を思いとどまらせる核抑止論を「虚構」と断じた。そのうえで、核保有国も、その同盟国も、核依存を低減するための真剣な措置をとっていないと批判した。
この条約をめぐっては、反対する国との対立が心配されてきた。米国などは、米ロ英仏中に核保有を認めた冷戦期以来の核不拡散条約(NPT)と路線が違うなどと主張している。
今回の会議の注目点は、その克服に知恵を絞ったところだろう。宣言は、不拡散条約の変わらぬ価値を評価したうえで、両条約間の「調整役」を設けるなどの行動計画を定めた。
また、核禁条約を保有国が批准した場合、原則10年以内の核廃棄を義務づけることも決めた。今は実現性は乏しくとも、将来の目標を見すえた態勢づくりが始まった意味は大きい。
非核国が保有国を責める姿勢に終始せず、対話と連携を探るのは賢明な判断だ。それだけに8月にある不拡散条約の会議では、保有国側の態度が問われることになろう。
今回の会議の席に、被爆国である日本政府の姿がなかったのは痛恨の極みだ。
北大西洋条約機構(NATO)のドイツやオランダなどはオブザーバー参加し、核禁条約への不参加を強調しつつも、各国との「建設的対話を続ける」と約束した。
安全保障をめぐる現状認識について相違はあっても、核廃絶の目標をともに掲げ、国際会議で堂々と論じあう。それがなぜ日本政府にできないのか。
参加もせずに核保有国と非核国との架け橋にはなれない。それが鮮明になった以上、岸田政権は姿勢を改め、今後の核禁条約の論議に参画すべきだ。
政府にかわって存在感を示したのは、日本の被爆者や若者たちだった。長崎の被爆者、宮田隆さん(82)は、ウィーンの街でウクライナやアフガニスタンなどからの難民や戦争被害者と会話を重ねたという。
会議の行動計画には、加盟国の拡大などに向けた市民社会との協働が盛り込まれた。核禁条約の理念を推進する日本の市民の力に今後も期待したい。
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