(社説)電力供給不安 情報発信の工夫さらに

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 早くも猛暑が到来し、東京電力管内では電力需給の「逼迫(ひっぱく)注意報」が出た。不測の大停電が起きかねない状況では、節電も対策のカギを握る。健康や社会活動に無理のない取り組みを広げるため、政府や電力会社は、分かりやすく情報を発信し、ねらいが明確で効果的な施策を練る必要がある。

 供給不安は、3月の地震による火力発電所の損傷と、想定を超える暑さが主な原因だ。東電管内では、夕刻などに供給余力が5%を切る見通しが続き、政府が注意報を出して節電を呼びかけた。東北、北海道電力の管内でも、注意報の前段階の「準備情報」が出た。

 政府からの要請は、あくまで「無理のない範囲での節電」であり、健康を損なうようなことはあってはならない。熱中症にならないよう、冷房は適切に使うことが大切だ。一方、電気器具には簡単な工夫でうまく節電できるものもある。状況ごとの具体例など、きめ細かい情報提供が求められる。

 注意報などの出し方にも課題がある。見通しの土台になる想定気温や、追加で調達できるかもしれない供給力などが一般に公表されておらず、刻々と変わる供給余力の数値だけでは、切迫度の実態が伝わりにくい。

 この先、頻繁に注意報などが出ると、「なれ」が生じて、いざという時に節電の協力が得られにくくなるおそれもある。需給の詳しい情報や対応策の効果などを整理し、速やかに発信する工夫が必要だ。

 政府は、電力会社の節電プログラムに参加する世帯に2千円相当のポイントを支給し、各世帯の節電実績に応じて電力会社が出す分にも上乗せすると表明した。

 逼迫時に使用を抑えた利用者への値引きや還元策は、多くの人が利点を実感して、無理なく節電に取り組む仕組みにできれば、意義が大きい。政府が民間を後押しすることもあってもいいだろう。だが政府の案は、生煮えにしても理解しがたい点が多すぎる。

 まず、実際に節電につながるとは限らない「参加」だけで、多額の公費を出すのはおかしい。実際に、ピーク時の需要をならせなければ、意味がない。そもそも「物価高対策」だと強調するのも、目的を混同している。電力需給対策と明確に位置づけて検討すべきだ。

 電力需給の見通しは、次の冬はさらに厳しい。古い火力発電所の休廃止の増加が、供給力の低下を招いている。構造的な課題への対処は後手に回っており、適正な余力の確保につながる電力制度への見直しも急がなければならない。

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