(社説)参院選 賃上げ 公約に実効性あるか

[PR]

 賃金の引き上げが、日本経済の重要課題になって久しい。とりわけ生活必需品の値上がりが続くいま、緊急性が増している。政権与党はこれまでの政策の限界をどう省みるのか。野党は何を提案するのか。スローガンだけでなく、具体的な道筋を示せるかが問われている。

 日本の賃金は過去四半世紀にわたり低迷してきた。政府の分析でも、1人あたりの実質賃金は、91年から2019年にかけて英国では1・48倍、米国では1・41倍に増えたのに対し、日本は1・05倍だった。

 バブル崩壊やリーマン・ショックがあったにせよ、停滞が著しい。自民党は政権復帰後「アベノミクス」の成果を誇ってきたが、多くの企業が株主への配当を増やし、手元の現預金を積み上げる一方で、働き手への還元は不十分だった。

 今春闘でも、賃上げ率は定期昇給込みで2・09%(連合まとめ)にとどまる。岸田首相は、過去20年間で2番目に高いと胸を張るが、定期昇給を除く賃上げ分は1%にも及ばない。消費者物価上昇率が2%に達する現状では、実質的には賃下げだ。

 参院選で自民党は「25年ぶりの本格的な賃金増時代を創る」とうたう。かけ声は勇ましいが、具体策は賃上げ促進税制の拡充などで、新味に乏しい。企業に「アメ」をぶら下げる政策だけでどれだけ効果が期待できるのか、疑問が拭えない。

 安倍政権以降、政府が経済界に賃上げを求める動きもあった。岸田首相も昨秋、業績が回復した企業には「3%を超える賃上げを期待する」と発言した。自民党は大企業から献金を受け続け、政府の経済財政諮問会議は、民間議員4人のうち2人が財界の「指定席」になっている。親密な関係を保った範囲での「要請」や「期待」の限界を直視すべきだろう。

 この点で、公明党の公約にある「第三者による委員会が賃上げの目安を示す」という案には一考すべき要素があるが、中立性の確保や副作用の有無について、慎重な検討が必要だ。

 野党側も多くの党が賃上げ実現を公約の柱に掲げる。最低賃金の引き上げ幅を与党の案より大きくするとの主張も目立つ。最低賃金は、低所得者層の生活の支えでもあり、足元の物価動向も踏まえれば、一段の引き上げが望ましいのは間違いない。

 一方で、賃上げ全般についての野党側の公約も、実効性は必ずしもはっきりしない。賃金水準は、経営者と労働者の間の力関係に左右される部分も大きい。いかに働き手の交渉力を強めるか。経済環境の安定も含めた有効な施策を練り、積年の懸案に応える必要がある。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません