(社説)熱海の土石流 「失敗」繰り返さぬため
災害関連死を含めて27人が死亡、1人が行方不明となっている静岡県熱海市の土石流災害から、3日で1年が過ぎた。
危険な盛り土がどんな経緯で造成・放置されたのか。発災までの経緯と責任の所在を明らかにして、教訓を確実に生かさなければならない。
これまでの調べではっきりしたのは、事業者に対する行政の審査と指導のずさんさだ。
県の第三者委員会が5月にまとめた最終報告書によると、土地の前所有者が提出した造成の申請書には、災害防止策などの重要事項が記載されていなかった。それでも市は受理し、その後の不誠実な姿勢にも「断固たる措置」をとらなかった。
県もまた、造成面積が計画より広がり、森林法で知事の許可が要る1ヘクタールを超える可能性があったのに、積極的にかかわろうとしなかった。
報告書は「適切な処置を行う機会は幾度もあった」とし、市と県の一連の対応を「失敗」と結論づけている。
不手際が長年にわたって続いたことは疑う余地がない。委員会の提言を受けて、行政は具体的な改善策を早急に実行に移す必要がある。
何より重い責任を負うのが、事業者側であることは言うまでもない。だがその言動は言い逃れに終始している感が強い。
5月にあった熱海市議会の百条委員会で、土地の前所有者は「土地を(盛り土造成業者に)貸していただけだ」と述べ、現所有者は「現場に行ったこともない」と関与を否定。客観的事実と整合しない証言もあった。失われた命の重みに真摯(しんし)に向き合い、事実解明に協力することを、いま一度強く求める。
委員会では、県と市が互いに批判し合うような場面も見られた。県民・市民の生命と財産を守るべき行政の「醜態」に、遺族のみならず、人々はどんな思いを抱いたか。
遺族らは土石流は人災だったとして、土地の現・旧所有者に損害賠償を求めており、県と市に対しても近く同様の訴訟を起こす意向だ。また、業務上過失致死などの疑いで関係者を刑事告訴している。民事、刑事の両面から真相に迫る審理と捜査に期待したい。
今回の災厄を受け、新たな「盛土規制法」が成立した。人家などに被害が及ぶ恐れがある地域を規制区域に指定し、その中での盛り土を許可制にするとともに、罰則も強化した。
指定区域の選定や違反行為の監視強化などは自治体の仕事だ。違法な盛り土は全国各地にある。国は地方まかせだったこれまでの姿勢を改め、しっかりサポートしてほしい。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。