(社説)参院選 科学の振興 言葉だけでなく実践を

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 足元が大きく揺らぎ、このままでは早晩行き詰まる。そんな認識が広く共有されるようになったというべきだろうか。

 参院選では多くの政党が、大学などが安定して研究に打ち込める環境づくりや、若手研究者たちの処遇の改善を、公約や政策提言に掲げている。

 大切なのは、言葉だけに終わらせず実践することだ。とりわけ政権与党の責任は重い。

 自民は安倍政権下の16年の参院選で「基礎研究・学術研究を着実に振興する」、17年衆院選「地方大学の魅力向上に取り組む」、19年参院選「将来を担う若手・女性研究者の研究環境を整える」などの政策を掲げ、岸田政権になった21年衆院選でも「基礎研究を推進」と訴えた。

 現実はどうか。研究力の指標となる注目論文の数は、90年代初めの3位からG7で最低の10位に転落し、大学ランキングでも中韓に後れをとる。原因として、04年の国立大学の法人化以降、基盤的経費である国の運営費交付金が削られ続け、恒常的に研究者を抱えられなくなったことなどが挙げられる。

 すぐに役立ちそうな分野を重視する近年の「選択と集中」路線では、飛躍的な発展の芽をはらむのに一見地味な基礎研究には予算が回らない。

 将来に希望を持てず、優秀な若者が研究の道を断念するという悪循環が生まれている。これを断ち切るのが政治の務めだ。

 先の国会で、10兆円の大学ファンドを設け、運用益で最大3千億を先端の数大学に配分する法律が成立した。だが、地方大学などに向けた振興予算は630億円余にとどまる。

 今回の自民の政策集も「基盤的経費を確実に措置」とする一方、経済成長に直結する研究をより重視している。それで優れた研究を支えるすそ野や多様性が育つのか、疑問は拭えない。

 科学技術の今後をめぐるもう一つの大きな懸念は、経済安全保障推進法にも見られる研究開発への国の関与の強化だ。

 軍事転用可能な技術の流出を防ぐことはもちろん大切だが、技術には軍事にも民生にも使えるものが多い。

 本来、研究は成果の公表・検証・相互批判の上に成り立ち、発展する。安易に国際的な交流を抑え込んだり、発表を禁じたりすれば、その発展を妨げ、逆に「国益」を損なうことにもなりかねない。日本の研究現場は海外からの研究者や学生によっても支えられていることを忘れてはなるまい。

 安保研究に対する姿勢は各党で様々だ。どんな科学技術政策が日本の未来につながるか。一票を投じる際には、この問題についても考えをめぐらせたい。

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