(社説)参院選 格差の是正 所得再分配の強化を

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 コロナ禍では、社会的な立場が弱い人ほど、暮らしと健康が脅かされた。格差を放置すれば分断が広がり、民主主義の基盤も揺らぐ。それを防ぐため、政府による所得再分配の働きをどう強めていくのか。参院選の投票にあたっての、重要な判断基準の一つである。

 過去30年あまり、歴代政権は所得税法人税率を引き下げ、消費税を増やして税収を賄ってきた。富裕層や高収益企業の負担は、相対的に軽くなった。

 経済成長を支える狙いがあったことは分かる。ただ、代償として、税による所得の再分配機能が弱まった。他の先進国と比べても力不足は明らかだ。機能回復のために、所得税や法人税、相続税などのあり方を見直すことが急務である。

 岸田首相も就任時には、「格差にしっかり目を向け、より一体感を感じられる経済を作っていかなければならない」と語っていた。だが、8カ月たっても、進展は乏しい。

 参院選でも、自民党の公約集には、「応能負担の強化等による再分配機能の向上」との一般論があるだけだ。それを実現するための改正の具体的な方向性は書かれていない。

 首相が総裁選で意欲を見せた金融所得課税の強化も、どこにも見当たらない。法人税や相続税などに比べれば、合意が得やすい税目のはずだ。それすら及び腰であるのならば、格差是正に真剣に向き合う気がないと断じざるをえない。

 再分配を進めるためには、給付の面でも工夫が必要だ。

 コロナ支援の多くの現金給付は、住民税非課税世帯に限られた。困窮した人に絞るのは妥当だが、基準をわずかに上回るだけで対象外になった人は不公平と感じているだろう。

 ひとり親世帯をはじめとする社会的弱者の支援は、今後も続く課題だ。所得や資産に応じてきめ細かく支える新しい仕組みづくりを急ぐべきである。

 立憲民主党などいくつかの野党は、減税と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」を提唱する。欧米の多くが導入しており、一考に値するだろう。

 問題は財源の確保だ。富裕層への所得税や法人税などの増税を唱えるが、公約に盛り込んだ他の施策も含めてまかなえるのか。現実的な税収と必要予算を示した議論が望まれる。

 日本維新の会は、所得税の税率の差を小さくする「フラットタックス」を掲げる。「ストック課税」への移行にも言及するが、全体として再分配機能が更に弱まる懸念が拭えない。

 税制や給付のゆがみと限界をどう捉え、いかに正すのか。目指す社会の姿が問われている。

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