(社説)水産資源管理 漁獲規制の具体化急げ

[PR]

 サケやサンマなど身近な水産物の不漁が相次いでいる。資源が枯渇すれば、国民生活への悪影響に加え、漁業の衰退も懸念される。だが、乱獲を防ぐ仕組みは、政府が方針を示したものの、具体化が一向に進まない。態勢の立て直しを急ぐよう、関係者に強く求めたい。

 漁業生産量は、1984年に1282万トンあったが、2020年は423万トンと3分の1にまで落ち込んだ。水産庁の調べでは、日本近海の魚種のほぼ半数が、過去と比べて資源量が低い水準にある。一因に指摘されるのが、資源管理の甘さだ。

 日本は長く、漁業者間の話し合いに基づく自主規制を重視してきた。漁業者の納得は得やすい半面、規制が緩くとどまった面は否めない。

 この反省を踏まえて、政府は18年に漁業法を抜本改正した。公的に漁獲可能量(TAC)を設ける魚種をクロマグロやサバなどの8から、23年度までに23に増やす案も公表した。しかし、漁業関係者が難色を示し、いまだに追加魚種が一つも固まらない。

 反対する漁業関係者は、政府の資源評価への疑念を理由にあげる。確かに海洋資源の調査は不確実性が高い。ただ、クロマグロをはじめ厳しい漁獲規制をした魚種は、着実に資源回復の成果をあげているのも事実だ。

 先月には世界貿易機関(WTO)が乱獲状態の魚種を対象にした漁業への補助金を禁止することで合意した。適切な資源管理をしていることが補助金を続ける要件になる。

 日本政府は不漁時の減収補填(ほてん)や漁港整備などの水産分野に、毎年3千億円程度の予算を投じている。海外の研究者からは、このうちの3分の2以上が乱獲を誘発する恐れがある補助金だとする指摘も出ている。科学的根拠に基づく資源管理がなければ、国際社会から補助金停止を迫られる可能性がある。

 資源評価の精度向上は、漁業関係者の理解を得るためにも欠かせない。政府は、資源評価に予算や人員を重点配分し、TAC対象の拡大に向けて漁業関係者と調整を急ぐべきだ。

 漁業関係者の側には、日本が厳しく漁獲を制限しても効果は限られるという主張もある。近年の不漁は、海水温など海洋環境の変化や、外国漁船による漁獲の拡大の影響もあるとみられているからだ。

 だが、自然環境の影響が無視できないとしても、資源を守るために乱獲を防ぐ必要があることは変わらない。また、国際的な漁獲制限を他国に呼びかけていくためにも、自らの足元で、資源管理が十分実行されていることが必須の条件になる。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

春トク_2カ月間無料