(社説)最低賃金 引き上げの歩み続けよ
今年度の最低賃金の引き上げの目安額が決まった。前年からの上げ幅は最大になったが、足元の物価高を考えれば、物足りなさが残る。他の先進国と比べた水準もなお低い。環境を整えながら、賃上げの歩みをさらに進めなければならない。
厚生労働省の審議会が、昨日、最低賃金を全国の加重平均で3・3%引き上げて時給961円とする目安を示した。最低賃金は、安倍政権が「全国加重平均1千円」の目標を掲げてから、コロナ禍の影響が大きかった20年度を除き、引き上げが続いてきた。昨年度の引き上げ幅は3・1%だった。
一方で、昨年と今年では経済状況は大きく異なる。消費者物価上昇率は1年前はマイナスだったが、足元は2%を超える。とりわけ家計への影響が大きい食料やエネルギーの値上がりが激しい。
目安額の議論でも物価高の影響が焦点となり、働く人たちの生計費を重視した水準が必要と結論づけた。であれば、昨年を若干上回る程度の引き上げで十分なのか、疑問が拭えない。
新しい目安額の水準で週40時間働いても、年収は200万円に満たない。主要先進国の中で見劣りする状況が続いていることも忘れてはならない。
都道府県ごとに実際の引き上げ額はこれから決まる。まずその際に、地域の実情に応じて目安額を上回ることを目指してほしい。
目安を議論した小委員会は、原材料費の高騰などで経営が厳しい企業側の事情も指摘した。下請け企業が不当な価格で取引を強いられることのない環境を実現することは急務だ。その上で、賃上げや生産性向上を進める中小企業の支援についても、効果を検証しながら、実効性を高めていく必要がある。
地域格差も課題だ。目安通りの引き上げでも、1千円を超えるのは東京、神奈川、大阪の3都府県だけで、6割近い県が800円台だ。こうした格差は、都市部への人材流出を招くとの指摘もある。働き手の生活保障の観点に立てば、水準が低い地域の底上げも急ぐべきだ。どういう手法が望ましいのか、議論を深めてほしい。
今年の目安額の議論では、政府は具体的な引き上げ目標を示さなかった。昨年までの政府主導の動きに、公労使3者による審議会の議論の軽視との不満が高まっていたためだ。
審議会への過剰な介入は望ましくないが、半面、引き上げが不十分に終われば分配政策の強化も進まない。企業の高収益と人手不足という条件がありつつ賃上げが進まない現状を、政権は改めて直視する必要がある。
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