(社説)防衛概算要求 際限なき膨張への懸念
新しい日本の安全保障戦略と、それを踏まえた防衛力整備の全体像が示されぬまま、金額を明示しない事項要求が約100項目にのぼる。これでは、格段に厳しさを増す財政事情の下、費用対効果の吟味は難しく、年末の予算編成に向け、際限なき膨張が懸念される。
来年度予算の概算要求が締め切られた。防衛費は今年度当初予算比3・6%増の5兆5947億円と過去最大。ただしこれは、従来の延長線上にある事業が中心で、政府が掲げる「防衛力の5年以内の抜本的強化」に必要な取り組みにかかる経費は、項目だけで、金額は示されていない。大幅な上積みが確実な見通しだ。
政府は年末に向け、「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定作業を進めており、来年度はこれらを反映する最初の予算という重みをもつ。自民党は、北大西洋条約機構(NATO)が目標とする対国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に、5年以内の大幅増の達成を求めているが、規模ありきでは、真に必要かのチェックがなおざりになりかねない。
防衛省が事項要求の柱の筆頭にあげたのが、敵の射程圏外から攻撃できる長射程のスタンド・オフ・ミサイルだ。敵基地攻撃にも転用可能な装備といえる。既存のミサイルの射程を1千キロ程度に伸ばす改良費に272億円を計上したうえで、量産費用を事項要求した。岸田政権が敵基地攻撃能力の保有に結論を出していないうちから、決定を先取りし、既成事実化を進めるものというほかない。
2年前に導入を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代わる、イージス・システム搭載艦の建造に向けた経費も、事項要求となった。陸上の2倍のコストがかかりながら、運用できる期間は1年の3分の1程度と、専門家からも費用対効果が疑問視されていた装備だ。総額費用を含む計画の全体像を、まずは明らかにせねばならない。
中国の軍事的台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発など、東アジアの安保環境は厳しさを増している。今年に入っては、ロシアのウクライナ侵略や台湾海峡をめぐる緊張の激化もある。国民の間に日本の安全に対する不安が高まっているのは事実だ。
一方で、長い年月を要する防衛力の整備には、複雑な国際情勢に対する洞察と長期的な視点に立った計画的な取り組みが欠かせない。多くの項目に事項要求のふたをしたまま、年末に一気に決めてしまおうというのは不遜な態度であり、必要な情報をきちんと開示したうえで、国民的な議論に付すべきだ。
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