(社説)テレビと地方 視聴者視点で未来描け

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 地方のテレビ局や視聴者に大きな影響が及ぶ見直しだ。ローカル放送の現状をどう評価し、いかなる未来図を描くか。議論を深める必要がある。

 総務省の有識者会議が先頃、放送の将来像や制度のあり方について考えを取りまとめた。

 そこには、(1)山間部などの難視聴地域に、放送波ではなくネット回線で番組を送れるようにする(2)在京キー局グループなどが傘下に置ける都道府県の数の制限をなくす(3)県域を越えて同じ放送をすることを認める――などが盛り込まれた。

 いずれも長短がある。

 (1)は中継局の維持にかかる経費を削減できる。だが、ネット経由で番組を見る機器の購入費や日々の通信費を誰が負担するのか。利用者に負わせれば、普通に電波を受信できる地域との間で不公平が生じる。

 (2)が実現すれば、財力のある局が経営難の地方局に対し、より多くの手を差しのべられるようになる。一方で、キー局などの支配が強まることによって地方局の独立性がそがれ、多様な放送・言論活動が維持できなくなる恐れが拭えない。

 (3)にも同様の心配がある。番組制作などにかかる費用は節減できるだろう。しかし、たとえば複数の県のニュース番組が統合されれば、人口や経済規模が小さい県に関する情報の発信が減ってしまうことが、容易に想像される。

 取りまとめの背景には、近年の若い世代を中心とするテレビ離れや、テレビの広告収入の減少がある。とりわけ地方局の経営環境はさらに厳しくなるとみられ、日本民間放送連盟は2030年の営業収入はコロナ禍前の水準から1割以上減ると予測している。今のうちに経営改善のための選択肢を増やしておこうという方向は理解できるが、解決すべき課題は多い。

 富山県のチューリップテレビは、調査報道富山市議らの政務活動費の不正利用を暴き、影響は全国に波及した。静岡朝日テレビは、昨年の熱海市土石流災害の様子を7時間にわたって生放送で伝え、被災者や県民に逐次情報を伝えた。

 こうした例を見るまでもなく、NHKとは異なるかたちで地域社会に密着・貢献している局は多い。ところが今回の議論は、キー局中心、東京視点で進められた感が強い。ローカル放送の未来を十分に検討しないまま、市場の論理が先行し、結果として視聴者が大きな不利益を被るようでは本末転倒だ。

 今後の具体的な方針決定や制度設計にあたっては、地域住民をはじめとする多様な人々が加わった議論と、それに基づく丁寧な調整が欠かせない。

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    曽我部真裕
    (京都大学大学院法学研究科教授)
    2022年9月2日12時37分 投稿
    【提案】

     まず、今回に限らず新聞報道では、総務省の「有識者会議」ではなく、読者が更に調べる手がかりを与えるため、「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」と正式名称を記して頂きたいと思います。  さて、ローカルテレビ局の危機への対策を