(社説)企業人権指針 取り組み強める契機に

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 企業の活動の影響は、取引のつながりを通じて、世界中に広がっている。内外を問わず、目の届きにくいところで強制労働や職場での差別などに加担することがないよう、人権を守る取り組みを強めることが必要だ。経営者は企業の社会的責任の重さを銘記してほしい。

 経済産業省が先月、「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」の案を公表した。サプライチェーンとは調達先や販売先を広く含めた「供給網」を意味する。

 指針は、日本で事業を営むすべての企業を対象にする。法的拘束力はないが、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」などに沿って、国際水準の人権尊重に最大限努めるべきだとうたっている。特に深刻な人権侵害として、強制労働や児童労働を挙げた。

 経営陣の責任で方針を定めたうえで、人権侵害の有無やリスクを特定・評価して対処する「人権デューデリジェンス」を求める。自社やグループ企業に加え、供給網上の企業も対象にする。人権を脅かされた人々が救済を受けられる仕組みを整えることや、適切な情報開示も盛り込んだ。

 国連指導原則は2011年に公表され、英仏は一定規模以上の企業に人権デューデリジェンスを法律で義務づけている。欧州連合でも法制化の議論が進む。米国は、米中対立も背景として、少数民族の強制労働問題を理由に新疆ウイグル自治区からの輸入を原則禁止した。

 日本は立ち遅れが目立つ。国連指導原則を踏まえた政府の行動計画は、一昨年にようやくできた。この計画も人権デューデリジェンスを促したが、上場企業などへの昨秋の調査では、実施しているのは回答企業の約半数にとどまる。

 だが、「人権をないがしろにして高い利益を上げている」と見られるような企業は、もはや社会から受け入れられない。国際的な取引からも締め出される可能性がある。「環境・社会・企業統治(ESG)」を重視する投資家からも敬遠されるだろう。指針を出発点に、積極的な対応を急ぐ必要がある。

 人権侵害の現場は海外に限らない。日本での外国人技能実習生の劣悪な労働環境には厳しい視線が注がれている。改善を急がなければならない。

 大切なのは、企業が幅広い関係者と対話を深め、責任ある行動をとることだ。消極的な「リスク回避」にとどまらず、人権侵害そのものをなくすよう努めなければならない。政府も、企業側の進捗(しんちょく)を見ながら、さらに手を打つべきことがないか、不断に点検していくべきだ。

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