(社説)安保文書改定 開かれた議論欠かせぬ
政府が年末の決定をめざす国家安全保障戦略(NSS)など安保3文書の改定は、戦後日本が維持してきた抑制的な安保政策からの大きな転換になりうるものだ。国民の幅広い理解と納得を後回しに、専門家中心の議論で結論を出すことは許されない。まずは、検討過程の透明化が不可欠だ。
NSSは日本の外交・防衛の基本方針で、第2次安倍政権が2013年に初めてつくった。厳しさを増す東アジアの安保環境や宇宙・サイバーといった新領域、経済安全保障などの新しい課題を踏まえ、岸田首相が9年ぶりの改定を表明。防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画と併せてとりまとめる。
政府は1月以降、17回にわたり、計52人の元政府関係者や学識者らと意見交換を重ねてきた。NSSの最初の策定時は、有識者8人による懇談会が設置され、議事要旨が公開されたが、今回は内容が明らかにされぬまま推移し、先週になってようやく、47ページからなる「議論の要旨」が公表された。
発言はテーマごとに、細切れな箇条書きにされており、氏名はない。政府側が「問題意識」として意見を求めた「敵基地攻撃能力」の保有に対しては、「必要」など前向きなものが7件、「支持しない」を含め慎重なものが3件記されていた。
防衛費については、GDP(国内総生産)比2%という北大西洋条約機構(NATO)の目標並みを「5~10年で達成」、GDP比で「3倍に増額」など、自民党の要求を後押しするような意見が並んだ。
幅広い分野の有識者を呼び、今の情勢を吸収しようとした姿勢は見て取れるが、官僚や自衛隊幹部のOBなど、政府の立場を代弁するとみられる有識者も少なくない。異論にもきちんと耳を傾けたのかは心もとない。
特に防衛費増の要求は総額ありきで、財源の裏打ちがない。ここで示された意見の「傾向」をお墨付きにして、今後の議論を進めるわけにはいかない。
政府は3文書の改定に向け、月内にも新たな有識者会議を設け、財源を含めて検討する方向だという。実質的な活動期間は3カ月ほどしかない。政府の方針をただ追認する機関とならぬよう、メンバーの人選は重要だ。防衛力の強化だけに偏らず、直接対話や多国間の枠組みを通じた信頼醸成など、外交を含む総合的な戦略の構築に向け、多様で幅広い専門家を糾合する必要がある。
そして、結論ありきで拙速に事を運ぶのではなく、国民的議論に資するよう、途中経過を含め、積極的に情報を開示していかねばならない。
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