(社説)ロシアの戦争 惨禍深める強制動員

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 無益な戦争をさらに拡大継続しようということか。強制的な兵力増派は、ロシア軍が陥った苦境の深さを露呈している。

 プーチン大統領が、ウクライナ侵略を続けるために予備役を動員する方針を表明した。同時に、同国東部と南部の占領地域で住民投票を強行し、ロシアへの編入を進める構えだ。

 ロシア軍は今月、占領地を大きく失った。プーチン氏が最優先に掲げる東部2州の完全占領の実現が遠のき、さらなる撤退さえ現実味を帯びる。

 政権周辺からも不満の声があがるなかでの住民投票は、ロシア領の拡大という「戦果」をつくる狙いだろう。8年前にクリミアを占領した際に国内の支持率が高まった前例もある。

 だが、占領下で行う「住民投票」は茶番に過ぎず、一片の正当性もない。

 ロシア軍が撤退した北東部ハルキウ州では、住民の拷問や処刑など、おぞましい戦争犯罪の痕跡が次々に見つかっている。プーチン氏は先日、ウクライナの政権を「ネオナチ」と呼んだが、ナチスさながらの蛮行を進めているのはロシアの方だ。

 ロシア国防相によると、今回動員する予備役は約30万人という。死傷者が7万~8万人にのぼるともいわれるロシア軍の兵力不足は深刻だ。

 戦況を巻き返すには総動員が不可避との見方もあり、世論が厭戦(えんせん)に傾くことを恐れるプーチン氏は、折衷策として部分的な動員を打ち出したのだろう。

 さらに最大限の非難を受けるべきは、核戦力による脅しである。プーチン氏が占領地の編入を急ぐのは、「核で守るロシア領」とすることで反撃をためらわせる狙いもあるようだ。

 ロシアは原発を占領して拠点としたほか、原発の近くを攻撃するなど、核が持つ危険性を戦争の道具に使ってきた。戦時下でも守るべき最低限の規範さえ顧みない蛮行である。

 国連本部ではいま、総会が開催中だ。ウクライナ大統領は、安保理常任理事国ロシアの拒否権を剥奪(はくだつ)するよう訴えた。

 世界秩序を破壊するロシアに、常任理事国の資格がないことは明らかだ。国連改革の道は険しくとも、平和と安全を守る国連の機能を担保する方策を真剣に論議する必要がある。

 プーチン氏は先日の国際会議で、インドの首相から「今は戦争の時代ではない」とたしなめられた。中国の習近平(シーチンピン)国家主席も懸念を示したとされる。

 国際社会は、この侵略戦争の出口を見いださねばならない。欧米も中国、インド、そして日本も、世界秩序の危機を打開するために協働してロシアに断念を迫る道筋を探るべきだ。