(社説)イグ・ノーベル 楽しむ気持ちを育もう

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 探究することを純粋に楽しむ。それを受け入れ、育んでいく社会でありたい。

 今年も「イグ・ノーベル賞」の発表があり、千葉工業大学の松崎元(げん)教授らが選ばれた。

 人々を笑わせ、考えさせた業績に与えられる、ちょっとあやしさも漂う賞。日本からの受賞は16年連続だ。ユニークな研究者がたくさんいるのはうれしく、頼もしくもある。

 松崎さんは、水道の蛇口のような「つまみ」を回すときの指の動きを研究し、大きさによって使う指の数が変わることを突き止めた。利用しやすいデザインにつながる研究だ。

 日本の受賞をふり返ると、ハトを寄せつけずフンの被害の少ない銅像の成分の研究、カラオケの発明、バナナの皮を踏んだときの滑りやすさの解明、歩きスマホが人の通行に及ぼす影響の調査――などが並ぶ。

 米国の雑誌編集者のマーク・エイブラハムズ氏が、ユニークな研究を世に広めようと、1991年に創設した。頭についている「イグ(ig)」には否定的な意味があり、「恥ずべき」といった意味の「ignoble」にもかけている。

 世界の大学や研究機関、企業などから受賞者の推薦があり、9千件を超えた年もあった。面白さを狙っただけの研究は対象外で、また、予算を投入したプロジェクトだから受賞しやすいという話でもない。

 理科系の賞の「業績」は、当初は皮肉を込めたようなものが多かった。しかし最近は、発想や着眼は奇抜でも、学問の正当な手順に従った実験・調査に基づく研究が多くなっている。

 受賞を名誉と思わない人もいて、辞退者も珍しくない。本家のノーベル賞では米国が圧倒的な存在感を示すが、イグ・ノーベル賞では突出しておらず、英国や日本の「健闘」が光る。メディアの報道も含め、社会の受け止めは好意的だ。

 エイブラハムズさんは「日英とも変わり者を大事にする」と語っている。このコメント自体の当否はともかく、風変わりな研究でも面白がって受け入れ、それが多くの受賞につながっていくのなら歓迎すべき話だ。

 近年、日本の研究力は低下し続けている。大きな成果を得るには多様性と広がりが欠かせない。一見ばかげたテーマにみえても、追い求めた先に、深遠な真理や飛躍的な発展がひそんでいる可能性だってある。

 好奇心を重んじ、個性的な研究に取り組める環境を用意し、充実させる。そうなれば、夢と希望をもって研究職をめざす若者も増えるだろう。

 「イグ」の後ろにある豊かさを大切にしたい。

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