(社説)教団被害相談 実像の解明につなげよ
霊感商法や高額献金など、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる金銭トラブルがなぜ、これほど広く長く続き、政府は手をこまぬいてきたのか。被害相談を救済へつなぐとともに、教団組織の実像を解明する契機としなければならない。
関係省庁の連絡会議が先月始めた合同の電話相談窓口には、教団に関して1300件以上の相談が寄せられた。驚くべき数であり、事態の深刻さを改めて思い知らされる。窓口の継続を決めたのは当然だ。
7割を占めた金銭問題ではその半分近くが献金への苦情で、信者のために借金した家族から「返金を求めたい」という相談もあった。現行の消費者契約法での救済には限界があり、不当な献金規制など法整備に向けた議論が消費者庁の有識者検討会で続く。今国会で審議に入れるものから順次提案してほしい。
貧困や心の問題を抱える「2世」の苦悩も、相談例から伝わる。「幼少期からの環境などにより、うつ病を発症した」「家族と離れて暮らしたい」
法務・警察、消費者行政のほか、連絡会議に加わった文部科学省と厚生労働省はケア対策に万全を期してもらいたい。
総務省や海外の邦人信者らを把握する外務省も入り、広く対処しようとする政府の姿勢は評価できる。だが、教団の所轄実務を担う文化庁が不在なのはどうしたことか。情報を共有し、教団の活動が適切か、その名称変更を認めた経緯と影響も含めて調べる職責があるはずだ。
霊感商法や高額献金をめぐっては、教団の「組織的な不法行為」や「使用者責任」を認めた民事裁判の判決が90年代以降、積み重ねられ、正体を隠しての勧誘は違法との判断も確定している。東京の印鑑販売会社長の信者らが有罪となった09年の刑事裁判では、「信仰と渾然(こんぜん)一体のマニュアル」による違法な手法が認定された。
この事件後の「コンプライアンス宣言」以降、霊感商法は1件もないと教団は主張する。だが対策弁護士連絡会によると、宣言後も「運勢鑑定」などと称して勧誘された人は絶えず、被害の訴えは少なくとも計8億円近いという。政府の窓口への相談をみても、金銭トラブルのうち、直近の支出が過去10年以内のものが3分の1強あった。
過度な献金に注意するという教団の「改革案」も先日示された。だが、教団の責任を司法が認めた例はもちろん、信者がかかわった過去の行為について、中立な第三者に真摯(しんし)な検証を依頼し、社会が納得できる客観的な調査結果を示すのが先決だ。宗教法人たる教団ならば、それが最低限の責務である。
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