(社説)総務相辞任 政権運営の正念場だ

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 社会の分断を深めた安倍元首相の「国葬」の独断。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との関係解明への及び腰と、後手に回る被害者救済策。そして、わずか1カ月で3人目となる今回の閣僚辞任。

 岸田首相の政権運営能力に、かつてない厳しい視線が注がれている。山積する重要課題への結論を迫られる年末に向け、失われた国民の信頼を取り戻せるのか、まさに正念場である。

 寺田稔総務相が辞任した。政治資金や選挙活動を所管する大臣でありながら、次から次に「政治とカネ」の問題を指摘され、苦しい弁明に終始してきた。身から出たサビといえる。

 地元後援会が提出した19、20年の政治資金収支報告書の会計責任者が、実は故人だった。添付された領収書の筆跡が酷似しており、空欄でもらって寺田氏側が宛名を記入した疑いがある。別の報告書では、貸付金600万円の未記載も判明した。

 政治活動の公明・公正を確保するため、資金の流れを透明化し、国民の不断の監視の下に置く。政治資金規正法の目的に背くずさんさには驚くばかりだ。

 先週は、昨年の衆院選での公職選挙法違反の疑いも浮上した。寺田氏側が地元市議6人に、ポスター貼りの報酬として2400~9900円を支払ったことが、運動員買収にあたるというものだ。朝日新聞の取材では、受領を拒んだ市議に、寺田氏側が「違法ではない」と言い含めて受け取らせていたことも明らかになっている。

 寺田氏は「地元からは『正直に説明して感心した』との声しか聞いていない」などと開き直り、辞任を否定してきたが、ゆうべになって、首相に辞表を提出した。きょうから始まる補正予算案の審議や、教団の被害救済をめぐる与野党協議への悪影響を避けるためだろう。真摯(しんし)な反省によるのではなく、国会対策が主眼では、国民の不信解消にはつながるまい。

 旧統一教会との接点が次々と明るみにでた山際大志郎経済再生相と、死刑執行を軽口に使った葉梨康弘法相を、首相は当初かばった。交代の判断が遅きに失したと、党内からも批判を浴びた。今回は後れをとるまいとしたつもりかもしれないが、3人もの不適格閣僚を任命した首相の責任は重い。

 宗教法人の解散命令を請求できる要件の答弁が一夜で変わったり、来年の通常国会を想定していた被害者救済新法の提出を今国会に前倒ししたり、内閣支持率の低下に浮足だったともみえる方針転換が相次いでいる。直面する内外の諸課題に、的確な処方箋(せん)を示せるか。その対応を国民は注視している。

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