(社説)赤木さんの訴え 「森友」を終わらせない
真相はいまも闇の中だ。民主主義の根幹をゆるがせてきた森友学園問題を、過去の話として忘れるわけにはいかない。
公文書改ざんに加担させられたことを苦に自死した財務省近畿財務局の元職員、赤木俊夫さん(当時54)の妻雅子さんが、佐川宣寿(のぶひさ)・元同省理財局長を訴えた損害賠償訴訟で、大阪地裁は雅子さんの請求を棄却した。
財務省の調査で「改ざんの方向性を決定づけた」とされたのが佐川氏だ。雅子さんは「真実を知りたい」として国と佐川氏を訴えたが、国は昨年末、訴えを全て認める「認諾」を突如表明。本格的な審理に入らないまま裁判を終わらせた。関係者への証人尋問の機会を奪い、法に規定がある求償も佐川氏に対してしないという国の姿勢には、改めて怒りを禁じ得ない。
きのうの判決では「国家公務員が職務で違法行為をしても、賠償するのは国で、公務員個人は責任を負わない」とする最高裁の判例が壁となった。ただ、故意の職権乱用に当たるような重大な事例にまでこの規範を適用して公務員を保護する必要はない、とする学説も有力だ。
裁判では、雅子さん自身が安倍元首相の死後に法廷に立ち、安倍氏の妻昭恵氏や佐川氏が経緯を明らかにすべきだと主張した。
昭恵氏は、鑑定価格から8億円余もの値引きで国有地を手にいれた森友学園が開設予定だった小学校の名誉校長だった。安倍氏が国会で「私や妻が関係していたら、首相も国会議員も辞める」と答弁した後、佐川氏の主導で改ざんが始まった。その佐川氏は、国会の証人喚問では刑事訴追の恐れを理由に証言を拒み、大阪地検の捜査が終結した後も口をつぐんだままだ。
司法の場での解明が見通せない中で、雅子さんの訴えに応える責務は、政権と国会にある。
きのうの国会では、裁判について「国が当事者ではなく、コメントする立場にない」とした鈴木財務相に続き、岸田首相も「財務省をはじめ関係者に説明責任を尽くすように指示は出し続けてきた」と答弁したのみだった。「政治の根幹である国民の信頼が崩れ、我が国の民主主義が危機に陥っている」と訴えて首相の座についた、その初心はどこへ行ったのか。
森友問題では公文書の改ざんと廃棄がまかり通り、国会で虚偽答弁が重ねられた。行政を監視する機能が大きく傷ついただけに、その回復を真相究明によってはかることが、国民を代表する国会の務めではないのか。
「真実を知りたい」と繰り返す雅子さんの声は、多くの国民の声でもある。そのことを思い起こすべきだ。
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