(社説)台湾の地方選 民主主義 対岸に示した

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 一人ひとりの有権者が足元の課題を見すえて、意中の候補に票を投じる。海峡を隔てて対峙(たいじ)する中国との緊張が一段と深まる状況においてもなお、台湾で民主主義の常道が実践された意義に注目したい。

 台湾で4年に1度の統一地方選が行われ、台北市長など多くの首長選で野党・国民党が勝利した。蔡英文(ツァイインウェン)総統が率いる民進党は大敗し、蔡氏は直ちに主席(党首)辞任を表明した。

 選挙戦を通じて民進党は、統一圧力を強める中国に対抗する姿勢を強調し、それを争点にしようと試みた。対中融和が基調の国民党が勝利したことを受け、中国政府の台湾政策部門はさっそく「平和と安定を求める民意の表れだ」と歓迎するコメントを出した。

 しかし、台湾の有権者の多くが中国との融和を望んでいると即断するのは誤りだ。地方選の関心は日々の暮らしに身近な課題であり、地域事情や候補者個人の力量に大きく左右される。総統選と違い、そもそも地方選で中国は争点になりにくいといえる。

 むしろ注目したいのは、一つの政党が圧倒的な権力を握る状況を回避する台湾社会のバランス感覚だろう。

 今回の国民党の勝利は政権を担う民進党に対する牽制(けんせい)効果を持つ。確保した多くの首長ポストを基盤に党組織の立て直しがうまく図れれば、中長期的に二大政党制の維持にもつながるはずだ。

 いま世界各地で民主主義の後退や不調が指摘される。もちろん台湾も、先鋭化しがちな党派対立、地方に顕著な利権政治など、多くの問題を抱える。

 それでも、中国という巨大な権威主義国家と向き合い、そのサイバー攻撃フェイクニュースの流布にさらされながらも、民主主義を守り、着実に前進させてきた。日本をはじめ民主社会には、この歩みを支えていく責任がある。

 日本にとって学べるものもある。定数に女性枠を設けるクオータ制により、地方議会選では民進・国民両党とも候補者の3分の1以上を女性が占めた。首長選でも、当選した21人のうち9人が女性だった。

 中国の習近平(シーチンピン)・国家主席は先の共産党大会で中台統一を「中国人が決めること」「武力の使用を放棄しない」と述べた。

 しかし、台湾の人びとが問うているのは、統一の是非以前に、市民が発言する自由、等しく政治に参加する権利があるかどうか、にほかならない。地方選は、民主主義の実践を通じて中国の共産党支配にノーを突きつけたものと、習氏は認識すべきだ。

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