(社説)脳死移植25年 意思生かす態勢充実を

[PR]

 脳死下での臓器移植が可能になって25年がたち、この間、900人近くが提供者(ドナー)となった。移植以外の治療が見込めない患者を救う医療として定着した一方、希望者に比べて提供できる臓器が圧倒的に少ない状態が続いている。

 2010年の改正法施行で、脳死下でも、心臓が止まってからと同様、本人が拒否の意思表示をしていない限り、家族の承諾で提供が可能となり、15歳未満も対象に含まれた。脳死のドナーは増えた。ただ、心停止後を含めてみればドナー全体の増加はわずかにとどまる。

 内閣府が昨年、実施した世論調査では、回答者の7割近くが臓器提供に関心があり、約4割が「提供したい」と答えた。一方、運転免許証や健康保険証などで「意思表示をしている」という人は1割にとどまり、意思がありながらも、それを確認する難しさがうかがえる。

 希望する本人や家族の意思を確実に生かせる仕組みをさらに充実させていく必要がある。

 脳死状態になれば、家族は動揺し、臓器提供にまで思いを巡らせることは難しい。そこで、死が避けられない状態にあると理解した上で、終末期の選択肢として、提供の機会があることを医療者から伝える「選択肢提示」の取り組みが広がっている。日本臓器移植ネットワークがドナー適応の可能性があった約1200例を検証した調査では、提供に至った約7割が選択肢提示をきっかけに話し合いが始まっている。

 むろん医療者側からの情報が心理的な圧力になってはならず、タイミングや内容には慎重さが必要だ。片や、そのような選択肢があることを知ってもらうことは大切で、話し合いの結果示される意思や希望は可能な限り尊重されるべきだ。

 現実には、施設側の事情や都合で提供に至らなかった例もある。そもそも主治医には患者の命が救えなかったという無念の思いがある。臓器提供につなげるには院内にコーディネーターなどを配置しておく必要もあり、医療機関の負担は大きい。

 脳死判定や臓器提供を行う条件を満たした全国約900施設のうち、厚生労働省の調査で「態勢を整えている」と答えたのは半分程度。実施例は経験豊富な一部に集中しているとの指摘もある。意思表示の確認に関するルールを設けていない病院も多数あるという。

 主治医とは別に、家族の支援に当たる専門チームも配置するのが望ましい。ただ、スタッフの確保が難しいとも聞く。

 厚労省や関連学会が主導して人材を育て、支援態勢を充実させていくことが欠かせない。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません