(社説)献金規制新法 被害の現実 救えるか

[PR]

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を受け、悪質な献金・寄付の勧誘を規制する政府案が固まり、きのう与党に示された。政府は近く閣議決定する意向という。

 この新法案で教団の被害者や家族らが救われ、同じような被害の再発防止はかなうのか。1カ月にわたる与野党協議を経て、ようやく最終盤で政府・与党側が歩み寄り、改善すべき点が盛り込まれたのは一歩前進だ。しかし、まだ課題は残る。

 今回盛り込まれたのは、勧誘をする際に宗教法人などが配慮しなければならない義務についての条項で、(1)自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状況に陥らせない(2)寄付者や配偶者、親族の生活の維持を困難にさせない(3)勧誘する法人名を明らかにし、寄付される財産の使途を誤認させない、の3点だ。

 いずれも、普通の法人であれば言わずもがなのことばかりだが、これまで教団が正体を隠して誘い込み、「先祖の怨念を解く」などと称して本人の自由な意思を奪い、献金を自らの使命と思い込ませる手法が、裁判などでも繰り返し違法とされてきたことに対応するものだ。新法案で明文化するのは当然だ。

 ただ、逆に言えば、これまでの裁判でも不法行為と認められてきた点を類型化したにとどまり、「禁止行為」とは位置づけていないため、行政の勧告・命令や刑事罰の対象にはならない。すべての点を「配慮義務」にとどめるのではなく、禁止行為に加えてしかるべき部分はないか、十分な検討が必要だ。

 他方、寄付の勧誘に際して霊感や威迫などで困惑させる行為は禁止行為と位置づけ、本人の意思に反する寄付は取り消せる権利を与える。だが特異な伝道を経たあとでは、被害者の明確な「困惑」や自覚的な「意思」の証明は難しいのではないか。献金ごとの立証が必要となれば、なおさらだ。こうした疑問点は、解消されていない。

 また、家族の救済策についても、民法の「債権者代位権」の特例を設ける政府案は、実際に機能するのか、まだ不透明だ。

 新法は国の努力義務として、日本司法支援センター法テラス)など関係機関による相談体制の整備や支援策の実施をかかげる。信者の家族や脱会しようとする信者に対する長期の継続的な支えが欠かせない。

 新法づくりは急務であり、教団だけでなく悪質な献金勧誘の根絶につなぐ契機でもある。実効性のある法整備のため、内閣が法案を提出した後の国会審議では、被害者や被害対策にあたってきた弁護士らの考えを十分に聴き、法案に不備があれば柔軟に修正すべきだ。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(春トクキャンペーン中)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

春トク_2カ月間無料